あわてんぼう 山之口貘
あわてんぼう
朝のごはんのとき あわてて
あついみそしるで したをやけどした
「おお あつい」とさけんだら
おかあさんが しかめっつらをして
「なにを そんなにあわてるんです」
といった。
駅まえの ふみきりのところで
しゃだん機が おりかけたとき
いそいで 通りぬけようとしたら
横から おとうさんが
ぎゆつと えりくびをつかんで
「おっとあぶない あわてるな」といった。
節分の夜 大きな声をはりあげて
ぼくが まめまきをしていると
うしろのほうで みんなのわらい声がした
ふりかえると にいさんが
「あわてんぼうだなあ
ふくは外 おには内じゃないんだよ
ふくは内 おには外だ」といった。
[やぶちゃん注:初出は昭和三七(一九六二)年二月号『小学四年生』。]