ひなまつり 山之口貘
ひなまつり
ミミコの
ひなだんかざりは
ボール紙だ。
だいりびなもボール紙
三人官女もボール紙
五人ばやしもボール紙
右大臣も左大臣も
みんなボール紙。
おかあさんが
はさみでちょきちょき
おねえさんは
おけしょうのかかりで
みごとにできあがった
ひなだんかざりだ。
ヒロキチくんも
あそびにきて
すてきだなあ と目を見はった。
ミミコは もうすぐ五年生だ。
ひなだんかざりだって いまに
じぶんの手で
つくるのだと
おもった。
[やぶちゃん注:初出は昭和三一(一九五六)年三月号『小学四年生』。
「おねえさん」ミミコ(泉)さんは長女であるから、これは実の姉の謂いではない。近所の年上の「おねえさん」であろう。
発表当時は泉さんは既に十二歳であるから、画面の彼女は前年の彼女としてもあり得ない感じがする。寧ろ、掲載誌に合わせたものであれば、泉さんが小学四年生、九歳以前(昭和二十八年以前)の景を元にしているか。……小学生のミミコさんの雛人形を化粧する「おねえさん」とは……中学生になった泉さん自身なのかも知れない。……
児童しとしても何とも特異である。この当時、小学館の『小学四年生』を買って貰える家庭の女の子がこれを読んでどう思ったろうか。雛人形を激しく偏愛する私(「忘れ得ぬ人々 9 Maria」などを参照されたい)には、この一篇、何か、ぐっときてしまうんである。]
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