腕ずもう 山之口貘
腕ずもう
みんな元気な連中だ
お天気ならばきゃっちぼおるとくるのだが
きょうは雨なので
腕ずもうと来たのだ
たがいに手と手を組み合わせると
口をゆがめぎゅっと目を閉じるが
閉じたその目をぱっとひらいては
ひといきいれてまたぎゅっと
顔いっぱいをまっかにして力み合うのだ
やがてぼくにも番が回って来て
「こんどは詩人だ」とだれかが言った
詩人というのはぼくのあだ名で
詩人のぼくは
詩には自信があっても
腕にはさっぱり自信はないのだ
しかし負けるにしたところで
やるだけのことは
堂々とやるところに
詩人の精神が生きているのだ
そこでぼくは堂々と
じぶんのほそい腕をまくって
堂々と相手の手に組むと
ぎゅっと目をつむり
口をひきしめて
顔いっぱいを
まっかにがんばったのだが
よいしょとばかりに
ねじ伏せられたのだ。
[やぶちゃん注:初出は昭和二八(一九五三)年九月号『中学生の友』(小学館)。]
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