古びた教科書 山之口貘
古びた教科書
ぼくの古びた
教科書たちよ
いつのまにやら学年末が来たのだ
毎日々々鞄のなかにおしこまれては
鞄のなかゝらひきずり出されたりして
頁をめくられてはのぞかれ
手あかでよごされ
へなへなになつたりして
みんなすつかりくたびれちやつたらう
ぼくの古びた
教科書たちよ
みんなほんとうにごくろうさんだつた
ぽくもいよいよ進級だとおもふと
おかげで少しは悧巧になつた気がするのだ
まもなくおまへたちはみんなして
押入の片隅にもぐりこみ
つかれを休める時が来るのだ。
[やぶちゃん注:原稿現存。思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」の松下博文氏の解題によれば、昭和三〇(一九五五)年頃の創作と推定される。松下氏は児童詩として何処かに発表されている可能性も示唆されておられる。]
« 今日のシンクロニティ「奥の細道」の旅 43 月山 雲の峰幾つ崩れて月の山 | トップページ | 赤とんぼ 山之口貘 »