日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十三章 アイヌ 10 和船
図―379[やぶちゃん注:下図。]
図―380
海岸には戎克(ジャンク)の型をとって造った、長さ二十五フィートの日本の漁船が一艇あった。生地そのままの木材は、清潔なことこの上なく、舳と船尾とに黒色の装飾的意匠がすこしついている。この型の船の奇妙な特徴は、船尾にある舵のための大きな空所で、これは日本の戎克すべてに共通な特異点である。前にもいったが、櫂架(かいかけ)はなく、単に短い繩の環が舷から下り、これに捧をさし通す。舳(へさき)のすぐ内側には、鉋屑を束にしたものが下っている。これは危険を避け、或は好運を保証する効果を持つと考えられる物であるが、恐らくアイヌの鉋屑の「神棒」から来たのであろう。神道の御幣は「神棒」から出来たものとされている。この舟はまるで荷物細工みたいに出来ていた。合目(あわせめ)は実に完全で、私が注意深く写生せざるを得ぬ程清潔で奇麗であった。図378は船尾から舟を見た所、図379は横から船尾を見た所、図380は舳である。舟には大きな捕魚網が積まれ、潮が満ちて来て浮き上るのを待っている。
[やぶちゃん注:「二十五フィート」七・六二メートル。
「櫂架」底本では「櫂」が「擢」であるが、この字には「櫂」の意味はない。誤植と断じて、訂した。
「鉋屑を束にしたもの」削り掛け。ヤナギやニワトコなど白い木の肌を薄く細長く削り垂らしたもの。紙が普及する以前は御幣として広く用いられた。
『アイヌの鉋屑の「神棒」』既注のイナウ。イナウは北方民族に広く見られる神器(供物)と思われ、私は黒沢明の「デルス・ウザーラ」で先住民ゴリド(現ロシア名:ナナイ)族の猟師デルス・ウザーラが全くそっくりなものを創るのを見て思わず膝を打ったものだった。]
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