萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「何處へ行く」(24) 酒場の一隅より(Ⅳ)
わが隱袋(かくし)かの色文とピストルと
爭ひつゝも七日共棲む
[やぶちゃん注:「隱袋」は原本は「隱衣」。誤字と断じて、校訂本文と同じく「隱袋」とした。]
きちがひになりたくなりて爪屑を
火鉢にくべて見て居たるかな
[やぶちゃん注:爪を焼く香りは火葬場の臭いとはよくいう(当然である)が、個人サイト「鰹乃國の万談義」のこちらの「おぢやん おばやんの言い伝え」の記事の中に土佐では「爪を燃やすと貧乏になる」「爪を燃やすと気がふれる」ともいうらしい。]
わがために二二ンが五たるそのことの
ある日を思ひ生くる愚かさ
[やぶちゃん注:「思ひ生くる愚かさ」は原本は「思ひ生ぐる禺かさ」。孰れも誤字と断じて校訂本文を採った。]
横町のぼんくら安も人竝み
我を説かんと日をおきて來る
我が髮をわれとむしれる習慣(なはらし)の
久しくなれば櫛も通らず
[やぶちゃん注:私ことながら、この一首、タイプしながら、私が小学校三年生の頃、一時、眉毛を引き毟る神経症的な癖が起こり、遂に右眉が半分位なくなってしまい、母が眉描きで描いて呉れたのを思い出した。]
EGOIST
われも酒場によこたはり
將棊に負けしことを悲しむ
[やぶちゃん注:「將棊」の「棊」は「棋」の異体字。]
新思想と國體
新しき此の國の人犬のごと
口籠(くちご)せられて生くるはかなさ
わが酒場かの黨員と日毎きて
カルタきるより樂しきはなし
[やぶちゃん注:いつもと同じく、最後の一首の次行に、前の「樂しきはなし」の「樂」の左位置から下方に向って、最後に以前に示した黒い二個の四角と長方形の特殊なバーが配されて、「酒場の一隅より」歌群の終了を示している。]
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