飯田蛇笏 靈芝 昭和十一年(百七十八句) ⅩⅤ 「靈芝」全句 了
獵夫某、古代の塚をあばき、石器陽物を發
掘してこれを祀る。
はなじろむ上古の神や春の風
聖日の花廛(はなや)の玻璃に幽らき秋
花温室に聖日懶惰なるにもあらず
聖日の水甕秋の花浸る
掛香や聖日の子の睫毛かげ
[やぶちゃん注:「掛香」は普通は本邦の匂い袋をいうが、ここは教会の景で、私はキリスト教会で用いられる鎖にぶら下げて振りたかれる香炉(Thuribulum トゥリブルム:香をたく金属製の小さな炉)や、香炉掛けに掛けられた小船の形をした香入れ(香舟 Navicula:ナビクラ)などがイメージされる。]
女醫の君靑猫めづる冬來る
兒のケープ雪白にして聖母祭
雪かゝる聖樹の窻に驢馬の鈴
鬪牛の花蘭ねぶる暮秋かな
うす虹をかけて暮秋の港かな
花うつる忌の甕水も暮秋かな
夜風たつ菊人形のからにしき
無花果の馬柵にまつたく黄葉しぬ
雨そぼつ柴のほずゑの天蠶繭
[やぶちゃん注:「天蠶繭」は「かいこまゆ」と訓じているか。]
羽ぐるまをもろに交はして稻すゞめ
花八つ手蜂さむざむと飛べるのみ
大菩薩峠
鷹ゆけり秋霞みして嶽の雪
[やぶちゃん注:以上を以って今年の二月十四日から開始した飯田蛇笏句集「靈芝」の句部分の全電子化を終了した。]

