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2014/07/07

大和本草卷之十四 水蟲 介類  淡菜(イガイ)

 

淡菜 海中ニアリ延喜式ニ貽貝ト云是ナルヘシ東海及筑

紫ノ海ニ多シ※カヅキテトル本草ニ一名東海夫人ト云ソ

ノ形ヲ以名ツクトイヘリ日華曰雖形狀不典ト云ニヨク

[やぶちゃん字注:「※」は「蜑」の上下を左右(虫偏)とした字体。書き下し文では「蜑」を用いた。]

合ヘリ嫏嬛記ニ余皇日疏ヲ引テ文囓似女陰味頗

可也文囓ハ即淡菜トイヘリ本草ニ先煮熟シテ後毛

ヲ去テ再タイコン紫蘓冬瓜ナト加ヘテ食ストイヘリ

味ヨク性ヨシ乾シテ食スルモヨシミルクヒト訓スルハ非ナリ

ミルクヒハ西施舌ナリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

淡菜(いがい) 海中にあり。「延喜式」に『貽(い)貝』と云ふ、是れなるべし。東海及び筑紫の海に多し。蜑(あま)、かづきてとる。「本草」に『一名、東海夫人と云ふ。その形を以つて名づく。』といへり。日華が曰く、『形狀、不典〔(ふてん)〕なりと雖も』と云ふに、よく合へり。「嫏嬛記〔(ろうけんき)〕」に「余皇日疏」を引きて、『文囓〔(ぶんげつ)〕は女陰〔(ぢよいん)〕に似、味、頗る可なり。』と。『文囓』は即ち、淡菜といへり。「本草」に先づ、煮熟して後、毛を去りて再びだいこん・紫蘓・冬瓜〔(とうがん)〕など加へて食すといへり。味、よく、性、よし。乾して食するもよし。『みるくひ』と訓ずるは非なり。『みるくひ』は西施舌なり。

 

[やぶちゃん注:斧足綱翼形亜綱イガイ目イガイ科イガイMytilus coruscus 。属名“Mytilus”(ミティルス)は同属のヨーロッパ産のムール貝(ムラサキイガイ Mytilus galloprovincialis )を意味するギリシャ語“mitylos”に由来。因みに英語の“mussel”はギリシャ語の鼠を意味する“mys”を語源とする。参照した荒俣宏氏の「世界大博物図鑑 別巻2 水棲無脊椎動物」の「イガイ」の記載によれば、『殻の形や色が鼠を思わせるためか』とある(なお、“mussel”はイガイ科 Mytilidae の(ムラサキ)イガイ類を指す以外に、別にイシガイ科 Unionidae の淡水産二枚貝の総称でもあるので注意が必要。私の日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十三章 アイヌ 8 札幌にて(Ⅴ)を参照されたい)。因みに、国立国会図書館蔵の同本には頭書部分に旧蔵本者の手になると思われる手書きで、

下品也

と記されてある。

「淡菜」は淡白なおかずの謂いであろう。こういう字が当てられていること自体、本種が「延喜式」にさえ載るように古くから広く食用に供されていたことを示す。

「貽貝」「爾雅」の「釈魚」に『玄貝、貽貝』(玄貝は、貽貝)とあるように、中国では古えより広く黒色の貝を示す語であった。

「かづきて」「潜(かづ)く」で水中に潜って、の意。

「東海夫人と云ふ。その形を以つて名づく」イガイは外套膜から殼頂附近で多くの足糸を出して自分の体を岩などへ固定するが、これが陰毛に似ており、また衰弱個体が貝を開いて外套膜や肌色の内臓を覗かせたりした全体の状態が人の女性生殖器によく似ていることからかく呼んだ(実際によく似ていると私も思う。初めて見たのは高校二年の遠足で行った石川県の松島水族館の小さな貝類標本室であった。無論、その時の私は比喩対象されるその元を見知ってはいなかったが、「ニタリガイ」と手書きの解説が附されていて、誰も見に来ないその部屋でドキドキしながら観察したのでよ~く覚えているのである)。本邦でも「ニタリ」「ニタリガイ」「ヒメガイ」「オマンコガイ」「オメコガイ」「ボボガイ」「ソックリガイ」「ツボ」「ヨシワラガイ」などの超弩級に猥褻な異名を多数持つ貝である。

「日華」北宋の大明の撰になる「日中華子諸家本草」。散逸したが、その内容は後の「本草綱目」等の本草書に引かれて残る。

「不典」不作法。ここはイガイの形状が猥雑なことをいう。

「嫏嬛記」元の伊世珍撰の小説。瑯嬛記とも書くようである。

「余皇日疏」不詳。

「文囓」中文辞書サイトに『淡菜的』とある。何故、この字を当てるのか、ちょっと興味がある。貝殻の成長線を「文」=紋とし、足糸で固着する習性を「囓(か)む」としたものか。

「紫蘓」紫蘇。

「冬瓜」は古くは「とうぐわ(とうが)」と発音した。

「『みるくひ』は西施舌なり」異歯亜綱バカガイ超科バカガイ科オオトリガイ亜科ミルクイTresus keenae 。漢字表記では「海松食」「水松食」で所謂、通称のミルガイのこと。「西施舌」は一応、その漢字表記とする(但し、今回中文サイトを調べてみると少なくとも現代中国では「西施舌」はバカガイ科 Coelomactra 属アリソガイCoelomactra antiquata を指している)。益軒先生、またしても大正解!]

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