吾家の歌 山之口貘
吾家の歌
七坪ほどからはじまったのが
九坪になり十坪になって
いまでは十一坪の設計となったのだ
さてしかしこの吾家
どこに建つのか
いつ建つことなのか
建たないうちは夢なので
どこに建つのやら
いつ建つのやら
科学的には知る手がかりもないのだが
生きてゐるうちには
建てるつもりで
どんなに遅くなるにしても
棺桶よりは先に吾家を
どこかに建てるつもりなのだ
[やぶちゃん注:初出未詳。未発表かも知れない。昭和三七(一九六二)年二月頃から翌昭和三八(一九六三)年二月頃の創作と推定される一篇(根拠は底本の思潮社二〇一三年九月刊「新編 山之口貘全集 第1巻 詩篇」の解題を参照されたい)。詩集「鮪に鰯」の編纂用詩篇原稿群の中に含まれていることから、『鮪に鰯』への収録を検討した一篇と推定される。実際には採られていない。]