田園の復興 山之口貘
田園の復興
かつて目をむき出した
りゅつくさっくの群れが
そこらの農家から農家をかぎ回り
米やさつまや
かぼちゃを買いあさった
りゅつくさっくは重たくふくれあがって
すぎ木立のところをまがり
たんぼ道をぬって松林を通りぬけて
もういちどたんぼ道をまがりくねり
土手の上に来てそこで一休みしたものだ
こうして毎日飢えた都会が
餌を求めて田園を踏み荒らしたのだが
おもえばそれも戦争の罪で
十年まえのことだった
ぼくはいまそこら一面に
田園の復興を見るおもいで
黄ばんだたんぼ道を歩いているのだ。
[やぶちゃん注:初出は昭和三〇(一九五五)年十月号『中学生の友』。これは最早、児童詩ではない。バクさんが大人の人間としての中学生に向けた大人の詩としてのエールである。]