橋本多佳子句集「紅絲」 童女抄 Ⅲ
唐招提寺
夏雲の立ちたつ伽藍童女のうた
童女のうた伽藍片陰しそめけり
日を射よと草矢もつ子をそゝのかす
[やぶちゃん注:「草矢」は薄・茅(ちがや)・菅などの葉の太い脈を矢柄としてその両脇を矢羽根形に裂き、葉を指に挟んで投げ矢のように飛ばす遊び。小愚氏のブログ「五七五 大河の一滴」の「草笛や昭和を向いて吹いてみる」に写真がある。……ああ、草矢を最後に飛ばしたのはいつだったか……]
日を射つて草矢つぎつぎ失へり
博と同じほどの男の子ひとり野に立てば
林檎齧る童子冬日を落しつゝ
日の翼冬蝶遊びほゝけたり
冬の蝶童女の顔をのぞきては
童女より冬蝶のぼるかゞやきて
鞦韆を漕ぎはげむ木々枯れつくし
童女の眉馥郁として雪を吊る
註。炭のかけらに糸を結びつけて雪を吊る遊び
[やぶちゃん注:この遊び、私は知らなかったが、サイト「札幌の自然資料」の「雪つり」に可愛らしい絵とともにその遊びが紹介されてある。]
つまづきし如く忘れし手毬歌
息かくる一と羽(は)一と羽と羽子蘇(い)きる
突き了へて羽子を天より掌に享くる
童女走り春星のみな走りゐる
麻疹子(はしかご)の竝びて髪の長きが姉
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