飯田蛇笏 靈芝 おくがき / 奥附
お く が き
この句集のなかの一句に、
靈芝とる童に雲ふかき甌窶かな
といふのがある。この句を集中の第一作と自信したりするが故にそこから靈芝といふ名をとつたといふやうなわけではない。が、靈芝といふのは、自然物において私の愛好するものゝ一つだからである。
靈芝は、深山幽谷に自生する一種の茸類である。けれども決して食用たり得るものではない。別に、まんねんたけとも名づけられてゐる。全體が木質で、半圓形又は同形の傘と、柱狀の柄とから成つてゐ、傘の表面は、柄とゝもに漆を塗つたやうに赤褐色の光澤を持ち、表面は淡黄色を帶びてゐる。遊學後二十餘年にわたろ山中生活の長い間に、二度ほどこれを深山に發見したことがある。一度は、老樹の下の淸淨と乾いた山土に。一度は、靑苔に蔽はれた巨巖の根のほとりに。
この句集は、總句數千句を收めてゐるのだが、既刊のものから半數を採り、他の半數を現在までに及んで採つてほしいとのことであつたから、その通りにした。即ち、昭和六年までの作品中から五百句、其の後昭和十一年までの作品中から五百句を選出したものである。前期のものにしてもさうであつたが、殊に後期のものは種々な雜誌、新聞等に發表したもので、それを一々しるしておきたい氣持も動かないではないが、列擧する煩に堪えへないので省く。
昭和十二年仲春
蛇 笏
[やぶちゃん注:以下、奥附。順に上部中央の「版権所有」・下部枠右外下方の製本記載・枠内奥附詳細・枠下部印刷所(底本では右から左表記)の順。]
版 権
所 有
(長谷部製本)
昭和十二年六月十三日 印 刷
昭和十二年六月十七日 發 行
靈 芝
定價金壹圓八拾錢
著 者 飯 田 蛇 笏
發 行 者 山 本 三 生
東京市芝區新橋七丁目十二番地
印 刷 者 森 島 金 治 郎
東京市芝區西應寺町六十一番地
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