橋本多佳子句集「紅絲」 虫たち (Ⅰ)
虫たち
こがね虫朝は殺さず嘆きけり
翡翠(かはせみ)の飛ばねばものに執しをり
夫(つま)恋へば吾に死ねよと青葉木菟
くらがりに捨てし髪切虫が啼く
髪切虫押へ啼かしめ悲しくなる
うつむきてゐるは髪切虫と遊ぶ
わがそばに夜蟬を猫が啼かし啼かし
青みどろ蛇ゆきし跡さらになし
蟻地獄孤独地獄のつゞきけり
断崖へ来てひたのぼる螢火は
螢籠昏ければ揺り炎えたゝす
水鶏笛吹けばくひなの想ひ切
[やぶちゃん注:「水鶏笛」は「くひなぶえ(くいなぶえ」と読み、クイナを誘い出す(食用で串焼きなどにした)ためにその鳴き声に似せて作った笛。伊賀市観光公式サイト「いがぶら」の「くひな笛」に画像がある。吹くのにはかなりコツがいるらしい。音源を探してみたが見つからなかった。これ、欲しい。]
おはぐろ蝶雨すぐ止んですぐ降つて
[やぶちゃん注:「おはぐろ蝶」チョウ目アゲハチョウ上科アゲハチョウ科アゲハチョウ亜科アゲハチョウ族アゲハチョウ属クロアゲハ
Papilio protenor 若しくはその近縁種を指すか。]
蟻走りとゞまり走り蟻に会ふ
隠るゝもの青蛇の尾のなほ余る
人来るひとり蜈蚣を押へゐれば
[やぶちゃん注:老婆心乍ら、「蜈蚣」は「むかで」と読む。]
さかしまにゐて蟷螂よこのまゝ暮るゝか
毛虫焼く焰が触るゝものを焼く
いなびかり毛ものゝ背に手触れゐて
愛されずして油虫ひかり翔つ
熱砂ばかりもし青蜥蜴失なはゞ
[やぶちゃん注:この句、妙に惹かれる。]
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