杉田久女句集 263 花衣 ⅩⅩⅩⅠ 春晝や坐ればねむき文机
花衣時代 一句
春晝や坐ればねむき文机
[やぶちゃん注:角川書店昭和四四(一九六九)年刊「杉田久女句集」では、昭和七(一九三二)年のパートに同じく『花衣時代』の前書で六句載るその冒頭の句である。因みに他の五句は直ぐ後に出る『蒲生にて 五句』と同一である。本句集でこの一句を独立させたところに、久女の本句に対するなみなみならぬ自信のほどが見てとれる。久女を知る人には言わずもがなであるが、ここで一応注しておくと、俳誌『花衣』は、久女が昭和七(一九三二)年三月に主宰誌として創刊した女性だけの俳誌『花衣』を創刊し主宰となったが、この『花衣』は同年九月の五号を以って廃刊となった。長女石昌子氏編の底本年譜によれば『家事の多忙と雑務に追われ作品の低下するのをおそれたのが理由だった』とある。続く同年の記載には『この頃より久女は俳句作者として生涯を打ち込む決意を』したとあり、また、『句集出版の志を持ち、序文を虚子に願うも承諾されなかった』のもこの時であったとある。――気怠い春昼……文机に前屈みに凭れる……春愁に沈む麗人……それが俳人久女その人の絵姿であったのである……]