萩原朔太郎「ソライロノハナ」より「うすら日」(1) ひとづま(全)
うすら日
うすら日はやゝ來て這へる露臺など
紅き花など咲けるこのごろ
[やぶちゃん注:「うすら日」の標題の裏に一首のみ配されたもの。因みに筑摩書房版「萩原朔太郎全集」第十五巻(昭和五三(一九七八)年刊)の校訂本文では「やや来て」となっているが、この「来」は明らかに誤植である。]
ひとづま
なにごとも花あかしやの木影にて
きみ待つ春の夜にしくはなし
[やぶちゃん注:本歌は、朔太郎満二十六歳の時、『朱欒』第三巻第四号(大正二(一九一三)年四月発行)に載った、
なにごとも花あかしやの木影にて君まつ春の夜にしくはなし
の標記違いの相同歌である。]
あいりすのにほひぶくろの身にしみて
忘れかねたる夜のあひゞき
[やぶちゃん注:本歌は、朔太郎満二十六歳の時、大正二(一九一三)年十月二日附『上毛新聞』に載った、
あいりすのにほひぶくろの身(み)にしみて忘(わす)れかねたる夜(よる)のあひゞき
の標記違いの相同歌(太字「あいりす」は底本では傍点「ヽ」)。]
夏くれば君が矢ぐるまみづいろの
浴衣の肩ににほふにひづき
[やぶちゃん注:本歌は同じく朔太郎満二十六歳の時、大正二(一九一三)年十月二日附『上毛新聞』に載った、
夏(なつ)くれば君(きみ)が矢車(やぐるま)みづいろの浴衣(ゆかた)の肩(かた)ににほふ新月(にひづき)
の標記違いの相同歌。]
しなだれてはにかみぐさも物はいへ
このもかのも逢曳のそら
[やぶちゃん注:前歌と同じ初出の、
しなだれてはにかみぐさも物(もの)は言(い)へこのもかのものあひゞきのそら
の標記違いの相同歌。]
おん肩へ月は傾むき煙草の灯
ひかれる途のほたるぐさ哉
[やぶちゃん注:底本校訂本文では「傾むき」を「傾き」に、「灯」を「火」と『訂』する。採らない。特に後者は明らかな捏造である。]
なにを蒔く姫ひぐるまの種をまく
君を思へと涙してまく
[やぶちゃん注:本歌は、朔太郎満二十六歳の時、『朱欒』第三巻第四号(大正二(一九一三)年四月発行)に載った、
なにを蒔くひめひぐるまの種を蒔く君を思へと涙してまく
の標記違いの相同歌である。]
あひゞきの絶間ひさしき此の頃を
かたばみぐさのうちよりて泣く
うち侘びてはこべをつむも淡雪の
消(け)なまく人を思ふものゆへ
[やぶちゃん注:「ゆへ」はママ。朔太郎満二十六歳の時、『朱欒』第三巻第四号(大正二(一九一三)年四月発行)に載った、
うちわびてはこべを摘むも淡雪の消なまく人を思ふものゆゑ
の標記違いの相同歌である。]
かくばかりひとづま思ひ遠方の
きやべつの畑の香にしみてなく
いかばかり芥子の花びら指さきに
しみて光るがさびしかるらむ
[やぶちゃん注:「芥子」は原本では「艾」(よもぎ)の右払いの左の起筆箇所に左下向きの点が入った字体。後掲する先行する歌形に従い、「芥子」と訂した。本歌は朔太郎満二十六歳の時、大正二(一九一三)年十月二日附『上毛新聞』に載った、
いかばかり芥子(けし)の花(はな)びら指(ゆび)さきに泌(し)みて光(ひか)るがさびしかるらむ
の標記違いの相同歌である。]