生物學講話 丘淺次郎 第十一章 雌雄の別 三 局部の別 (3)
[やぶちゃん注:底本では明度を上げ過ぎて白く飛んでしまって見難いので、国立国会図書館蔵の原本(同図書館「近代デジタルライブラリー」内)の画像からトリミングし、表情が見られ、且つ他の箇所が白く飛ばないぎりぎりのところまで補正をした(現在、著作権満了の画像に対しては国立国会図書館ではかつてのように使用許可申請(本テクスト化では総て許可申請を行ってきた)をせずに同図書館の画像であるを明らかにすれば、原則、自由に使用することが出来るようになった。以下、この丸括弧内の注は略す)。]
生殖器が常に體外に現れて居る動物では、如何に他の體部が同じであつても、その局部さへ見れば雌雄の別は直にわかる。とくに多數の獸類の雄では、生殖腺なる睾丸は皮膚の袋に包まれて交接器の後に垂れて居るから、雌との相違が更に明瞭に知れる。尤も象の如くに睾丸が腹の内にあるもの、「いたち」・「かわうそ」の如く陰嚢の小さなものもあり、「ヒエナ〔ハイエナ〕」といふ狼に似た猛獸などは、動物園で生きたのを飼うて居ながら雌雄がなかなか分からぬやうなこともあるが、牛や山羊などの飼養畜類では陰嚢が頗る大きく垂れて居るから、遠方から見ても、雌雄を間違へる氣遣ひはない。また交接器自身にも隨分巨大なものがあつて、北氷洋に住する「セイウチ」などでは、その中軸の骨が人間の腿の骨よりも大きい。
[やぶちゃん注:「ヒエナ〔ハイエナ〕」哺乳綱獣亜綱真獣下綱ローラシア獣上目食肉目ネコ亜目ハイエナ科 Hyaenidae に属するハイエナ亜科ブチハイエナ Crocuta crocuta・カッショクハイエナ Parahyaena brunnea・シマハイエナ
Hyaena hyaena、及びアードウルフ亜科アードウルフ
Proteles cristatus (本種のみ昆虫食でシロアリを主食とする)の現生四種の総称。丘先生は「狼に似た」とされている。確かに一見、そう見えるが、間違っていけないのは、イヌに似ているものの、ハイエナ類はネコ目ジャコウネコ科
Viverridae に最も近縁な種群である点である。ここはウィキの「ハイエナ」に拠ったが、同ページのアフリカに広く分布するブチハイエナ
Crocuta crocuta の解説の項には、『メスには高い血中濃度のアンドロゲン(雄性ホルモン物質)ホルモンが保たれており、そのため哺乳類としては珍しくメスは平均してオスより一回り大きく、オスのペニスと同等以上のサイズにもなるクリトリスやその根元にぶら下がる偽陰嚢(中には脂肪の塊が入っている)を持ち、順位も攻撃性もメスの方が高い。この特徴的な外性器の様子から、科学的研究が進む前には"雌雄同体の下等な生物”と考えられていた時期もあったようである』(十頭から十五頭程度の『クラン(clan)と呼ばれる母系の群れを形成し、共同の巣穴で生活する。群れのメンバーが協力して、ヌーやシマウマ、トムソンガゼルなどを狩る。同じサイズの動物中、最も強力な顎を持ち、驚異的なスピードで食物を平らげる』ともある)とある。近代に哺乳類で雌雄同体と誤認されていたというのは珍しい。
『「セイウチ」などでは、その中軸の骨が人間の腿の骨よりも大きい』前段の注で紹介した「え!カメのおちんちんってこんな形!? YouTube動画で学ぶ動物のペニスの不思議」でその異様な大きさが実感出来る。]
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