橋本多佳子句集「海彦」 青蘆原 Ⅲ
水底の明るさ目高みごもれり
吾に気づきてより翡翠の気鋒損じ
草深く落つ螢火の重さもて
滝道や小幅の水がいそぎゆく
螢火が過ぐとき掌中の螢もゆ
葭雀松をつかみて啼きつゞくる
[やぶちゃん注:「葭雀」は「よしすずめ」と読む。スズメ目スズメ亜目スズメ小目ウグイス上科ヨシキリ科 Acrocephalidae に属するヨシキリの仲間の総別称。夏の季語。miz8ra 氏の「よしきりのさえずり(2)」で鳴き声と映像が視聴出来る。]
髪乾かず遠くに蛇の衣懸る
[やぶちゃん注:多佳子には珍しいかなりはっきりとした鬼趣句である。「衣」は「え」で、蛇の抜け殻であろう。やや作為的確信犯だが嫌いじゃないね。]
日盛りの墓かげ濃しや吾を容れ
草静か刃をすゝめゐる草刈女(め)
人への愛憎午前の蟬午後の蟬
時計直り来たれり家を露とりまく
(二十六年)
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