日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十五章 日本の一と冬 日本婦人/野菜市場/玩具/綾取
図―461
先日日本人の教授夫妻が私の宅を訪問し、私は細君に頼んで写生することを許して貰った。この写生図の顏は、彼女の美貌を更に現していない(図461)。また私は日本の赤坊が熟睡しているところを写生することが出来た。
図―462
人は市場を何度も訪れて、そしてそれ迄に気のつかなかったことに気がつく。何から何まで芸術的に展示してあることと、すべてがこの上もなく清潔なことには、即座に印象づけられる。蕪や白い大根は、文字通り白くて、ごみは全然ついていなく、何でも優美に結ばれ、包まれている。隠元豆は、図462に示すように、藁でしばって小さく梱(か)らげる。
[やぶちゃん注:「白い大根」原文は“white radishes”であるが、後に「第二十三章 習慣と迷信」では“daikon, a kind of radish,”と記している(そこでは石川氏はただ「大根」と省略してしまっておられる)。]
図―463
機械的の玩具は、常に興味を引く。構造はこの上もなく簡単で、その多くは弱々しく見えるが、而も永持ちすることは著しい。図463の鼠は、皿から物を喰い、同時に尻尾を下げる。横にある竹の発条(ばね)は、下の台から来ている糸によって、鼠に頭と尾とを持上げた姿をとらせているが、発条を押す瞬間に糸はゆるみ、頭と尾が下り、そして頭は皿を現す小さな竹の輪の中へ入る。鼠には色を塗らず、焦がした褐色で表面をつくってある。日本人はこの種類の玩具に対する、非常に多くの、面白い思いつきを持っている。それ等の多くは、棒についていて糸で動かし、又は我国の跳びはね人形のように動く。
[やぶちゃん注:「跳びはね人形」原文“jumpingjacks”。紙や木で出来た人形や動物で、下がった紐を引っ張ると手足をバタバタと動かすように細工された玩具。玩具販売サイトのここに『ドイツ語圏では「ハンペルマン」と呼ばれ、ヨーロッパでは古くから親しまれている木のおもちゃで』あるとして、オーストリアのザルツブルグにある
Gschnitzer Manufactur (シュナイザー社製)のジャンピング・ジャックの商品写真がある。グーグル画像検索「umpingjack」(この単語は元来が「挙手跳躍運動」の意であるのでそれ以外の)を見ると、構造や作り方を説明する英語サイトも多くあることが分かる。]
玩具や遊戯の多くは、我国のに似ているが、多くの場合、もっとこみ入っている。一例として綾取(あやとり)をとれば、そのつくる形は、遠かに我々以上に進む。日本人は舵で種々なものをつくるが、それ等の多くは非常に工夫が上手である。普通につくられる物はキモノ、飛ぶ鷺、舟、提灯、花、台、箱であるが、箱は、我々が子供の時、捕えた蠅を入れるためにつくつた物とは、全く相違している。
[やぶちゃん注:「綾取」原文は“cat's-cradle”(猫の揺り籠)。私は五十七になる今日まで多分、遠い昔、母と一度だけやった微かな記憶がある。調べてみたら、何と、「国際あやとり協会」“International String Figure Association”という協会のもの凄いデータ量を持った公式サイトを見つけた。演題などの紐の形など、詳しくはこちらを。さらにここにはまさに『モースの見た「綾取り」』(トピックスの123)がある!]
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