杉田久女句集 268 花衣 ⅩⅩⅩⅥ 水郷遠賀 十一句
水郷遠賀 十一句
萍の遠賀の水路は縱横に
菱の花咲き閉づ江沿ひ句帳手に
菱刈ると遠賀の乙女ら裳を濡すも
[やぶちゃん注:後掲される、
菱採ると遠賀の娘子(いらつこ)裳(すそ)濡(ひ)づも
の句の推敲形の一つ。そちらの注を参照されたい。]
菱の花引けば水垂る長根かな
水ぬるむ卷葉の紐の長かりし
水底に映れる影もぬるむなり
靑すゝき傘にかきわけゆけどゆけど
泳ぎ子に遠賀は潮を上げ來り
千々にちる蓮華の風に佇めり
藻鹽焚く遠賀の港の夕けむり
もてなしの蓮華飯などねもごろに
[やぶちゃん注:「蓮華飯」ハスの実はまだ青いうちは食用になる。ネット上では発案者を横浜三溪園園主であった原富太郎(慶応四(一八六八)年~昭和一四(一九三九)年)とし、また以下のようなレシピを見つけた。実の固い皮を剥いた後、さらにその下の薄皮も剥き取り、出汁でさっと煮ておく。器にご飯と蓮の実を入れて出汁をはり、千切りのしその葉を添えて供する。『蓮の実の仄かな香りとシャキっとした食感でとても美味しくいただけ』るとある(tokeiji 氏の個人ブログ「まつがおか日記」の「蓮華飯」に拠る)。但し、蓮華の実を食用とする習慣は汎アジア的に古くからあり、この久女の「蓮華飯」もそうした伝統に基づくものであって、原三溪のそれとは思われない。]