杉田久女句集 270 花衣 ⅩⅩⅩⅧ 水鄕遠賀 三句 菱採ると遠賀の娘子裳濡づも 他
水鄕遠賀 三句
菱實る遠賀の水路は縱橫に
菱採ると遠賀の娘子(いらつこ)裳(すそ)濡(ひ)づも
菱摘むとかゞめば沼は沸く匂ひ
[やぶちゃん注:菱採りの乙女の裳裾が「濡」れるというのは、坂本宮尾が「杉田久女」で述べておられるように、万葉以来の官能的な美の慣用表現で、情熱の女人久女の面目躍如たる三句である。宮尾氏のよれば、名吟「菱採ると」の句は、何度も推敲を重ねているとある。それらを宮尾氏の記載に従って復元してみると、
菱採ると遠賀の乙女は裳濡づも
↓
菱採ると遠賀の乙女ら裳濡づも
↓
菱採ると遠賀の娘子裳濡づも
はとなる。宮尾氏は『「乙女は」は説明的だ。「乙女ら」よりも「娘子」の方が字面がいい。そのため久女は最終的に娘子を採用したのであろう』とされ、但し、『久女は「娘子」に「いらつこ」のルビをふっているが、辞書には「いらつこ」とは若い男のこと、若い女は「いらつめ」とある。そうなるとこの読みには無理がありそうだ』と附記しておられる。しかし、この句、その瑕疵を補って十分に素晴らしいと私は思う。]
« 日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十五章 日本の一と冬 モースの明治の帝都東京考現学(Ⅳ)歳の市にて | トップページ | 橋本多佳子句集「海彦」 夏書の筆 »

