杉田久女句集 280 花衣 ⅩLⅨ 筑紫觀世音寺三句外九句
筑紫觀世音寺三句外九句
さゝげもつ菊みそなはせ觀世音
菊の香のくらき佛に灯を獻ず
月光にこだます鐘をつきにけり
かゞみ折る野菊つゆけし都府樓址
道ひろし野菊もつまず歩みけり
こもり居の門邊の菊も時雨さび
菊の簇れ落葉をかぶり亂れ伏す
簇れ伏して露いつぱいの小菊かな
遂にこぬ晩餐菊にはじめけり
菊根分誰ぞわが鏝を使ひ失す
菊の根に降りこぼれ敷く松葉かな
日の菊に雫振り梳く濡毛かな
[やぶちゃん注:昭和九(一九三四)年秋に福岡県太宰府市にある観世音寺(「続日本紀」の記述によれば天智天皇が母斉明天皇(六六一年没)追善のために発願した寺であったが、完成したのは発願から約八十年も経った天平一八(七四六)年のこととされる。ここはウィキの「観世音寺」に拠る)及び「都府楼趾」(とふろうあと)を訪れた。ここは大伴旅人・山上憶良・観世音寺別当沙弥満誓(さみまんぜい)らが集った筑紫万葉歌壇の舞台であった(坂本宮尾氏の「杉田久女」(一三七頁)の記載を参照した)。]
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