杉田久女句集 271 花衣 ⅩⅩⅩⅨ 遠賀川 十一句
遠賀(をんが)川 十一句
[やぶちゃん注:標題は確かに「をんが(おんが)」とルビを振っているが、本句群の句中に於いては「遠賀」を恐らくは後注する古地名の「おか」から「おが」と読んでいる可能性が高いか。坂本宮尾氏は「杉田久女」でそう断定しておられる。]
菱蒸(うむ)す遠賀の茶店に來馴れたり
すぐろなる遠賀の萱路をただひとり
[やぶちゃん注:「すぐろ」末黒。野焼きの跡が一面に黒くなっているさまをいう語。春の季語。]
生ひそめし水草の波梳き來たり
添ひ下る塢舸(おか)の運河はぬるみけり
[やぶちゃん注:崗(おか)の水門(みなと)。遠賀川河口付近の古えの地名。神武東征の際に皇子や水主を率いて到着した所という。崗津・崗の浦ともいう。「おか」は「おほこ」(大河)→「おうこ」→「おか」と転訛したもので、古代語で川のことを「こ」と言ったと宮崎康平氏の「まぼろしの邪馬台国」(昭和四二(一九六七)年講談社刊)にはある。]
土堤長し萱の走り火ひもすがら
風さそふ遠賀の萱むら焰(ほ)鳴りつゝ
[やぶちゃん注:「焰鳴り」「日本国語大辞典」に「ほなる」の項があり、そこでは方言として火が起こる(山梨県南巨摩郡奈良田)、熱を・ほてる(伊豆三宅島)とある。坂本宮尾氏は「杉田久女」で、他の句の「ひもすがら」「風さそふ」という措辞と並べて、確信犯で『あきらかに和歌の調べを取り入れている』と述べておられる。]
蘆むらを燒く火はかなく消えにけり
焰迫れば草薙ぐ鎌よ野燒守
もえ迫る野燒の草を薙ぎ拂ひ
蘆の火の燃えひろがりて消えにけり
蘆の火に天帝雨を降(くだ)しけり
蘆の火の消えてはかなしざんざ降り
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