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2014/10/05

杉田久女句集 286 菊ヶ丘 Ⅰ

  菊ヶ丘(昭和十年より昭和二十一年まで)

 

[やぶちゃん注:「菊ヶ丘」久女は昭和六(一九三一)年四月に、大正七(一九一八)年八月より住んでいた当時の小倉市堺町から同市富野菊ケ丘(現在の福岡県北九州市小倉北区上富野)に転居していた。]

 

大いなる春の月あり山の肩

 

春曉の大火事ありしかの煙

 

春寒の樹影遠ざけ庭歩み

 

庭石にかゞめば木影春寒み

 

新らしき春の袷に襟かけん

 

新調の久留米は着よし春の襟

 

春の襟かへて着そめし久留米かな

 

花も實もありてうるはし春袷

 

春の風邪癒えて外出も快く

 

戀猫を一歩も入れぬ夜の襖

 

冬去りて春が来るてふ木肌の香

 

土濡れて久女の庭に芽ぐむもの

 

[やぶちゃん注:本名を詠み込んで格調を維持出来るのは久女以外にはおるまい。]

 

故里の小庭の菫子に見せむ

 

ほろ苦き戀の味なり蕗の薹

 

蕗の薹摘み來し汝と爭はず

 

移植して白たんぽぽはかく殖えぬ

 

空襲の灯を消しおくれ花の寺

 

近隣の花見て家事にいそしめる

 

掘りすてゝ沈丁花とも知らざりし

 

船客涼し朝潮の鳴る舳に立てば

 

蟬涼し汝の殼をぬぎしより

 

[やぶちゃん注:私の好きな一句。]

 

この頃は仇も守らず蟬涼し

 

羅の乙女は笑まし腋を剃る

 

[やぶちゃん注:私の好きな一句。]

 

壇浦見渡す日覆まかせけり

 

日覆かげまぶしき潮の流れをり

 

おびき出す砂糖の蟻の黑だかり

 

[やぶちゃん注:私の好きな一句。]

 

植ゑかへし薔薇の新芽のしほれたる

 

英彦より採り來し小百合莟むなり

 

冷水をしたたか浴びせ躑躅活け

 

實梅もぐ最も高き枝にのり

 

目につきし毛蟲援けずころしやる

 

鍬入れて豆蒔く土をほぐすなり

 

千萬の寶にたぐひ初トマト

 

處女の頰のにほふが如し熟れトマト

 

母美しトマトつくりに面瘦せず

 

朝に灌ぎ夕べに肥し花トマト

 

降り足りし雨に育ちぬ花トマト

 

新鮮なトマト喰ふなり慾もあり

 

この雨に豆種もみな擡頭す

 

[やぶちゃん注:「擡頭」老婆心乍ら、「たいとう」で台頭に同じい。頭を持ち上げて伸びること。]

 

朝な朝な摘む夏ぐみは鈴成に

 

[やぶちゃん注:底本では「朝な朝な」の後半は踊り字「〱」。]

 

靑芒こゝに歩みを返しつゝ

 

たてとほす男嫌ひの單帶

 

[やぶちゃん注:私の好きな一句。]

 

張りとほす女の意地や藍ゆかた

 

秋耕の老爺に子らは出で征ける

 

鳥渡る雲の笹べり金色に

 

菱實る遠賀にも行かずこの頃は

 

[やぶちゃん注:前にも注したが、「遠賀」は古称で「おが」と読んでいよう。]

 

菊の句も詠まずこの頃健かに

 

雲間より降り注ぐ日は菊畠に

 

龍胆も鯨も摑むわが双手

 

[やぶちゃん注:私の好きな一句。]

 

解けそめてますほは風にせ高けれ

 

[やぶちゃん注:「ますほ」真赭(まそお)。赤い色の意で、ここは「ますほの薄(すすき)」の意。]

 

蔓ひけばこぼるゝ珠や冬苺

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