からすうり
スミレ目ウリ科カラスウリ Trichosanthes cucumeroides
小学生の頃、韋駄天の友だちがいた。
運動会の時には、いつも山で採ってきたカラスウリを彼は持ってきた。
彼は走る前にそれを割って、あの納豆のような生臭い臭いのする中身を両太腿に念入りになすりつけるのであった。
だから、彼はいつも一番だった。
アリスの散歩で毎日、カラスウリを見ている。
採りたいけれど、あまりに高いところにぶらさがっていて、今年は手が届きそうにない。
僕はいったいカラスウリのあの実の赭(あか)が好きだ。
何故、好きなのか、よく分からない。
しかしそれは確かに、偏愛と呼ぶべき何ものかである――
孤高の画家高島野十郎の「カラスウリ」が好きだ(ネット上から採取)――
「……でも……なんで、それを塗ると速く走れるんだろう?……」
運動会の徒競走では何時もビリから二番目であり続けた僕は今も思うのです……
そうして
僕は僕の今の人生に、カラスウリを念入りに塗って見たくも、なるのです…………
■附記1
カラスウリの黒い種は「打ち出の小槌」に似ることから、財布に入れておくと、お金が増えると信じられたそうである。 Aquiya 氏の「草木図譜」の「カラスウリ」によれば、『昔の人はこの種子を「結び文」(細く折って結んだ手紙)に見立て、「玉梓(たまずさ)」と呼びました。なぜ結び文を玉梓と呼ぶのかというと、古代においては、手紙を梓(あずさ)という木の枝に結び付けて運ぶ習慣があったからです。梓は玉梓の美名で呼ばれ、転じて結び文、手紙がこの名前で呼ばれるようになりました』とある。……カラスウリは僕の「遂に逢はざる人」への恋文のなれの果てなのかも知れぬ……
■附記2
僕は幼児に結核性カリエスを患ったために文弱でおしなべて運動が嫌いであった。それでも運動会の徒競走や高校時代の体育祭の部対抗ロードレース(演劇部には男子は私しかいなかったから必然的に出ざるを得なかった。二上山往復凡そ8キロを体育祭の後半で走るトンデモ競技で、この時は流石にビリになりそうになったが、一緒に走っていた理科部の先輩――私は理科部生物班にも所属していた――が喫煙習慣からモク切れで息が切れて遅れ、「俺が栄光のどっぺになる」と言ってくれて、やはりケツから二番目を守ったのであった)でも遂に「ビリから二番目」であり続けた。即ち、僕は常に弱者に於いても次席を辛うじて保守していた/に甘んじていた/でしかなかったのである。――これは何かすこぶる象徴的な事実として永く僕の魂を支配してきた。
因みに僕が生涯の運動会の中で一等になったのは――後にも先にも――横浜翠嵐高校在職中の「狂師像」の唯一度きり――である。
――その日、父は51歳の僕に、わざわざ赤飯を買って呉れたのであった。
■附記3
フローラに昏い僕は、調べるうち、ウリ科がスミレ目であることを知って少し驚いた。そうして僕が何故、カラスウリが好きなのかも分かったような気になったものだ(私はスミレを偏愛する)。また、やはり Aquiya 氏の「草木図譜」の「カラスウリ」によれば、『学名のTrichosanthes(トリコサンテス)は、「毛」を表す trichos と「花」を表す anthos というギリシア語に由来します。この anthos という言葉(およびその変化形)は、たとえばアンスリウム(Anthurium=花+尾の意味)やダイアンサス(Dianthus=神聖な花の意味)など、多くの植物の学名に用いられています』とある。種小名 cucumeroides の方は字面からも推測出来るが、「キュウリに似た」という意であった。
……最後に。
“John Coltrane - Violets for yours furs”(コートにスミレを)
彼は走る前にそれを割って、あの納豆のような生臭い臭いのする中身を両太腿に念入りになすりつけるのであった。
だから、彼はいつも一番だった。
アリスの散歩で毎日、カラスウリを見ている。
採りたいけれど、あまりに高いところにぶらさがっていて、今年は手が届きそうにない。
僕はいったいカラスウリのあの実の赭(あか)が好きだ。
何故、好きなのか、よく分からない。
しかしそれは確かに、偏愛と呼ぶべき何ものかである――
孤高の画家高島野十郎の「カラスウリ」が好きだ(ネット上から採取)――
「……でも……なんで、それを塗ると速く走れるんだろう?……」
運動会の徒競走では何時もビリから二番目であり続けた僕は今も思うのです……
そうして
僕は僕の今の人生に、カラスウリを念入りに塗って見たくも、なるのです…………
■附記1
カラスウリの黒い種は「打ち出の小槌」に似ることから、財布に入れておくと、お金が増えると信じられたそうである。 Aquiya 氏の「草木図譜」の「カラスウリ」によれば、『昔の人はこの種子を「結び文」(細く折って結んだ手紙)に見立て、「玉梓(たまずさ)」と呼びました。なぜ結び文を玉梓と呼ぶのかというと、古代においては、手紙を梓(あずさ)という木の枝に結び付けて運ぶ習慣があったからです。梓は玉梓の美名で呼ばれ、転じて結び文、手紙がこの名前で呼ばれるようになりました』とある。……カラスウリは僕の「遂に逢はざる人」への恋文のなれの果てなのかも知れぬ……
■附記2
僕は幼児に結核性カリエスを患ったために文弱でおしなべて運動が嫌いであった。それでも運動会の徒競走や高校時代の体育祭の部対抗ロードレース(演劇部には男子は私しかいなかったから必然的に出ざるを得なかった。二上山往復凡そ8キロを体育祭の後半で走るトンデモ競技で、この時は流石にビリになりそうになったが、一緒に走っていた理科部の先輩――私は理科部生物班にも所属していた――が喫煙習慣からモク切れで息が切れて遅れ、「俺が栄光のどっぺになる」と言ってくれて、やはりケツから二番目を守ったのであった)でも遂に「ビリから二番目」であり続けた。即ち、僕は常に弱者に於いても次席を辛うじて保守していた/に甘んじていた/でしかなかったのである。――これは何かすこぶる象徴的な事実として永く僕の魂を支配してきた。
因みに僕が生涯の運動会の中で一等になったのは――後にも先にも――横浜翠嵐高校在職中の「狂師像」の唯一度きり――である。
――その日、父は51歳の僕に、わざわざ赤飯を買って呉れたのであった。
■附記3
フローラに昏い僕は、調べるうち、ウリ科がスミレ目であることを知って少し驚いた。そうして僕が何故、カラスウリが好きなのかも分かったような気になったものだ(私はスミレを偏愛する)。また、やはり Aquiya 氏の「草木図譜」の「カラスウリ」によれば、『学名のTrichosanthes(トリコサンテス)は、「毛」を表す trichos と「花」を表す anthos というギリシア語に由来します。この anthos という言葉(およびその変化形)は、たとえばアンスリウム(Anthurium=花+尾の意味)やダイアンサス(Dianthus=神聖な花の意味)など、多くの植物の学名に用いられています』とある。種小名 cucumeroides の方は字面からも推測出来るが、「キュウリに似た」という意であった。
……最後に。
“John Coltrane - Violets for yours furs”(コートにスミレを)