明恵上人夢記 40
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一、同十八日の夜、夢に云はく、二疋の小さき犬有り。一疋は白く、-疋は香の色等也。此の異なる色の犬、糸惜(いとほし)さ極り無し。即ち、之を以て飯を盛り、器と爲す。惣ての諸人等、小さき器の口を以て食器(じきき)と爲(なさ)むと思ふと云々。白き犬、火に入るといへども燒けずと云々。
[やぶちゃん注:「同十八日」建永元(一二〇六)年六月十八日。この夢、意味を採り難い。とんだ誤訳かも知れないのでご注意あれ。]
■やぶちゃん現代語訳
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一、同じく建永元年六月十八日の夜、見た夢。
二匹の小さな犬がいる。一匹は白く、-匹は仏前に捧ぐる御香のような赤茶けた色なんどをしていた。この異(こと)なる色の犬、孰れ愛おしいこと、これ、限りないのであった。されば即座に、この二匹の犬を飯を盛るための器と変ぜさせて飯を盛ってみた。参った総ての人々は、この二匹の犬の変じた揃いの小さな器を以って、
「まっこと、これ、よきものじゃ! 仏さまの食器(じきき)と致しましょうぞ!」
と思い、また口に出しても言うのであった。……
白い犬が、また、いる。この犬、火に入るると雖も、全く焼けぬのであった。……