甲子夜話卷之一 16 黄昏少將、五月雨侍從の事
16 黄昏少將、五月雨侍從の事
白川少將〔越中守定信〕は、文武兼濟の資なり。又敷嶋の道にも達せしこと、人の知ところなり。若きときの歌に、
心あてに見し夕顏の花ちりて
たづねぞまよふたそがれのやど
時に以て秀逸とす。後、定信老職となり、事に因て京師に抵る。月卿雲客指さして、黄昏(タソガレ)の侍從來りしと云ひしとぞ〔定信、時に四位の侍從なり〕。高家の横瀨駿河守〔貞臣〕、冷泉家の門人にて、是も頗る名高き歌仙なり。ある時五月雨の詠、
やまの瑞は重る雲に明かねて
夏の夜長き五月雨の頃
とありしを、師家にても殊に感ありしとなり。其後京兆にて五月雨の侍從と呼しとぞ。
■やぶちゃんの呟き
本条は既に前半の同話を引いている「耳嚢 巻之八 黄昏少將の事」で参考引用し、注も附してある。そちらを参照されたい。
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