今朝見た不思議な夢
今朝、見た夢。……
*
インドである。
[やぶちゃん注:私はインドに行ったことはない。恐らくこの映像はかつて行ったタイのスコータイ辺りのロケと思われる。]
――しゃん!
――しゃん!
と私は錫杖を突いて歩いている。
私はさる老師を出迎えに行った帰りである。
老師は抱えておられた薦を私に預けると一足先に行かれたので私は独りである。
私は何かを口に含んでいるのが実感される。
ハレーションしたような陽光の射す埃りっぽい田舎道を行くと、寺があって、その赤茶けた築地の向こうには菩提樹が鬱蒼と茂り、乾いた私の前の道の半分に森閑と影を落としている。
向こうから修行僧がやってくる。
陽に焼けた上に垢だらけで黒ずんだ赤銅色になっているが、身の丈、二メートルになんなんとする、そのがっしりとした二十過ぎの青年は、土埃に白くくすんでいるものの、確かに墨染の衣に身を包んでおり、明らかに日本人僧である。
頭はすべてが螺髪(らほつ)となって、見た目確かに、生き仏のようにさえ見える。
彼は突然、道の真ん中に座り込んで、鉄鉢(てっぱつ)を正面に置き、両手を拳にして左右に突くと、古武士のように私に向かって礼をし、托鉢を乞うた。
私は彼に近づいてゆきながら、口に含んでいたものを歯に銜え、
――かりっ!
と齧って二つに割った。
それは毒々しい真っ赤な棗の実であった。
そうして私はその半分を、その鉄鉢の中へ投げ入れた。
青年僧は何か不服不審げに私を煽った。
すると――
私は持っていた錫杖を振り揚げ、
――しゃん!
彼の鉄鉢の前に垂直に突き刺すや、錫杖の頭を握ったまま、坐った彼の周囲をそのままに一廻りさせるのであった。
地面はまるで温めたバターのように錫杖を動かすなりに数センチの空隙を造りながら真円に斬れてゆくのである。[やぶちゃん注:この時、私は唯だ真っ直ぐ立ったまま苦もなくそうしていたから、その瞬間だけ私は青年僧よりも遙かに大きい体になっていたことになるということを夢の中のどこかで「私」は体に感じていたことを告白する。]
青年僧は何か已に感じているのだろうか、凝っと面を伏せて観念したように微動だにしない。
そうして私は彼に、
「――今少し――そこに――おるがよい……」
と告げるのであった。
――と――
私が刳り抜いた青年僧を乗せた円柱は――
一瞬にして地の昏い底へと吸い込まれていった…………
*
この夢には前後に世俗的な話柄が連続しているのだが、それはこの印象的な話柄の青年僧とは話柄上は無関係に見える上に、簡明に言うと
――実は私はインドの大学の附属高校の入学試験に採点のアルバイトでいやいや雇われており、そこの受験生は試験の答案を見る限り、ほぼ全員が重い発達障害を抱えた女生徒ばかりである――
というトンデモ設定で
――示した話の「老師」というのは、その試験問題を作るという如何にも困難な仕事のために特別に招聘された私の知っている山中の「聖人」で(しかし試験問題の製作をそっちのけで遊びまくり、私が呆れるという場面さえある程度のトンデモ「聖人」なんである)――
――その彼を私がこれまた延々道に迷いながら迎えに行くというプロット――
――その中に突如現われるシークエンスが上記の夢
なのである。
これ、説明しだすと如何にも面倒なので、割愛することにした。
追記:
……よく「本当に見た夢なんですか?」と疑われるので言っておくが、十八の時から私は夢記述をして既に四十年になろうとしており、少なくとも夢の記憶と記述の再現力には強い自信を実は持っている。私が夢を再現しようとすると簡単に短編小説程度の分量になるのである(言っておくが夢で小説が書けると自慢しているのではない。あくまで、それぐらいの分量の叙述には軽くなってしまうという謂いである)。……実際、二十頃の夢記述などは、今の私が読んでも吃驚するほど詳細を極めるのである。……夢の中の地図や配置図、見た対象物の下手なスケッチまで記されてある。……最近、電子化を目論みながらも、プライベートな人名が多数出る上に、夢分析も記述の中に大幅に侵入しているものなので聊か躊躇している。……
因みに夢記述の絶対鉄則がある。それは目覚めたら直ぐに書くことである。時間が経ってから思い出して書くとたちまち覚醒時の検閲によって変質されてしまうからである。夢の記憶は恐ろしいスピードで速やかに変形し消去される。但し、以前にも述べたが、この夢記述、あまりやると精神に変調をきたす(実際、私自身、大学生の時に体験した。簡単なことである。「荘子」ではないが――今私は自分の夢を記述している/大学の友人に昨日見た夢を語っている――のだが……それ自体が私の見ている夢……なのではないかという錯覚が生じ始めるのである……ほどほどにするのが、やはり、よい…………