日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十五章 日本の一と冬 日本の蒐集家
蜷川を通じて、私は蒐集家及び蒐集に関する、面白い話を沢山聞いた。日本人が数百年間にわたって、蒐集と蒐集熱とを持っていたのは興味がある。彼は、日本人は外国人ほど専門的の蒐集をしないといったが、私の見聞から判断しても、日本人は外国人に比して系統的、科学的でなく、一般に事物の時代と場所とに就て、好奇心も持たず、また正確を重んじない。蟻川の友人達には、陶器、磁界、貨幣、刀剣、カケモノ(絵)、錦襴(きんらん)の切、石器、屋根瓦等を、それぞれ蒐集している者がある。錦襴の蒐集は、三インチか四インチ位の四角い切を、郵便切手みたいに帳面にはりつけるのである。彼は四、五百年になるのを見たことがある。有名な人々の衣から取った小片は、非常に尊ばれる。瓦は極めて興味のある品だとされ、彼は千年前の屋根瓦を見た。彼は、甲冑を集めている人は知らなかった。見殻、珊瑚(さんご)、及びそれに類した物を集める人も僅かある。上述した色々な物すべてに関する本は、沢山ある。有名な植物学者伊藤博士に於いてはこの日記の最初の方に書いたが、彼は植物の大きな蒐集を持っている。
[やぶちゃん注:「カケモノ(絵)」原文は“kakemono (pictures)”。
「三インチか四インチ位」七・六二~一〇・一六センチメートル。
「有名な植物学者伊藤博士」理学博士男爵伊藤圭介(享和三(一八〇三)年~明治三四(一九〇一)年)ではないかと思われる。「第四章 再び東京へ」の掉尾、私のテクストの「16 本草学者伊藤圭介との邂逅/お堀の蓮/日本人の動態物への反応の鈍さ」の本文及び私の注を参照。]
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