自動作用(芥川龍之介「藝術その他」第六章)
樹の枝にゐる一匹の毛蟲は、氣温、天候、鳥類等の敵の爲に、絶えず生命の危險に迫られてゐる。藝術家もその生命を保つて行く爲に、この毛蟲の通りの危險を凌がなければならぬ。就中恐る可きものは停滯だ。いや、藝術の境に停滯と云ふ事はない。進歩しなければ必退歩するのだ。藝術家が退歩する時、常に一種の自動作用が始まる。と云ふ意味は、同じやうな作品ばかり書く事だ。自動作用が始まつたら、それは藝術家としての死に瀕したものと思はなければならぬ。僕自身「龍」を書いた時は、明にこの種の死に瀕してゐた。(芥川龍之介「藝術その他」第六章)
« 文字通り胸糞悪くなる夢で目が醒めた | トップページ | 『風俗畫報』臨時増刊「鎌倉江の島名所圖會」 大江廣元墓 »