白き顏 萩原朔太郎
[やぶちゃん注:底本の筑摩版全集第二巻の「習作集第八巻(愛憐詩篇ノート)」より。クレジットはないが、前の詩「鬼ごと」が末尾に「一九一三、四」の、後の短歌「うまごやし」が冒頭に「一九一三、四」のクレジットを持つから大正二年四月以前の作詩と考えてよい。特に「△」の使用は「鬼ごと」でもあって、強い親和性が窺われる。]
△白き顏
△
夜つびとへ
その白き顏をみつめて居たりき
まどろみもせであかしたる
あさましき朝のつかれ
△
いづこに行かん
家はあり
されど歸るべき家はなし
いづこに行かん
△
友と別れたるあとの哀傷(かなしみ)
酒のさめたる後の哀傷
夜おそく
我家の門をくゞる時の哀傷
女と二人
淫らなることを終りたる折の哀傷
とりわけて
わがおこなひのあとさきを思ふ日の哀傷
△
いたく醉ひはてたるとき
友は三味線をふり廻して居たりき
女の腕は蛇の如くわが頸にまとひつきて
邪淫の瞳は熱に燒えたり
あやふき哉一切那
友は三味線を風車の如くふり廻して居たりき
[やぶちゃん注:題名の頭の△は底本の編者注により復元した。「燒えたり」「一切那」はママ。孰れも校訂本文は「燃えたり」「一刹那」とする。]
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