――芭蕉枕邊―― 五月雨に御物遠や月の㒵
五月雨に御物遠や月の㒵
(さみだれにおんものどほやつきのかほ)
――寛文七(一六六七)年――芭蕉二十三歳――
……これも私にはなにやらん……恋の気配が私めには致しますが……愚かな俗物とお笑い下さいませ……
[やぶちゃん注:「御物遠」は御無沙汰と同義の、日常や書簡の常套句であるが、「ものどほし」自体は「源氏物語」にも普通に使われている古語である。五月雨の中、暫くお目見えご無沙汰の月を擬人化したものながら、私にはどうもその見えぬ雲の向こうに、色香の匂いが漂うてくるのである。芭蕉の句は我々が思うておる以上に、濃厚なエロスの香りが句背に潜んでいるものと私は承知しているのである。]