甲子夜話卷之一 22 俊明廟、御幼少のとき大字御認の事
22 俊明廟、御幼少のとき大字御認の事
明廟、御幼くをはせし御時、大御所〔德廟〕の御傍に在せ玉ひて、草體の龍字を大書あらせられしに、字體大きく紙に溢るべき御筆勢なりしを、大御所いかゞあらんと御覽させ玉ふうち、果て點を打玉ふべき空白の處なかりしかば、終の一點を御疊にしたゝかに點ぜさせ玉ひしとぞ。げに天下を知ろし玉ふべき若君なりとて、大御所殊に御欣悦ありしとなり。
■やぶちゃんの呟き
「俊明廟」徳川家治。
「德廟」徳川吉宗。吉宗が終生、孫の家治の直接教育に当たったことは有名。
「幼く」「いとけなく」。
「果」「はたして」。
「終の一點」「終の」は「つひの」。草書の「龍」の字でつくりの右上方に打つ最終画の一点。
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