――芭蕉最期の枕邊にて―― うち山や外樣しらずの花盛り
宇知山 山邊郡
うち山や外樣しらずの花盛り
(うちやまやとざましらずのはなざかり)
――寛文十(一六七〇)年――芭蕉二十六歳――
……旅らしい旅をしたことの御座いませぬ私めですが……二十七の時……恋人ではない女人と天理の、あの山の辺の道を歩いたことを……今、何故か……懐かしく思い出しまして御座いました……
[やぶちゃん注:「うち山」現在の奈良県天理市杣之内(そまのうち)にあった真言宗修験道系の内山金剛乗院永久寺。かのおぞましい明治の廃仏毀釈によって廃寺となった。「外樣」は三方を山に囲まれた「内」山永久寺に對する「外」という縁語で、真言秘法の修法の山伏の寺なればこそ「外樣」(外部の者)には「知らず」(うかがい知ることが出来ない)、神妙の花盛りとした名所吟である。]
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