イリューシャのワルナヴィーツィの幽霊
イリューシャが語る。ワルナヴィーツィの幽霊。
「ワルナヸーツィか? ……きまつてら! ……あすこはとつても氣味(きび)わりいとこだよ! あすこでは、何べんも大旦那樣を、――死んだ旦那樣見た人があるちけよ。裾の長い上衣(カフタン)を著て、行つたり來たりして、いつもかうして溜息ついて、地べたを見まはして、何だか搜してんだちけ。一度はトロフィームィチぢいさんが出遭って、『旦那樣、イワン・イワーヌィチ、そんなに地べたを御覧になつて、何をお搜しなすつてらつしやるんですか?』つて訊いたんだよ……」
「おぢいさんがさう訊いたのかい?」とびつくりしてフェーヂャが念を押した。
「うん、訊いたんだ」
「ほう、トロフィームィチは、とても偉かつたんだなあ……、さあ、それで旦那は何だつて?」
「『錠切草をさがしてゐるのぢや』といふ返事だつたが、その聲がとてもとても低くつて、『錠切草』つて、こんな風なんだよ。『旦那樣、イワン・イワーヌィチ、錠切草なんて、何になさるのです?』といふと、『わしを壓しつけるんだ。墓が壓しつけるんだ、トロフィームィチ、だから向ふへ脱(ぬ)け出して樂(らく)になりたいのだ』つて……」(「猟人日記」「ビェージンの草原」中山省三郎訳より)
錠切草:御伽噺に出てくる毒草。その毒草を近づけると錠も門も斷ち切れて寶ものが得られといふ。(同中山氏の注)
錠切草:御伽噺に出てくる毒草。その毒草を近づけると錠も門も斷ち切れて寶ものが得られといふ。(同中山氏の注)

