杉田久女句集 303 杉田久女句集未収録作品 Ⅸ 大正七年(4)
生計(たつき)たつる花畠に風雨憂ひけり
花畠に色澄む峰や蜂群るゝ
用なき灯厨尚ある春夜かな
河にむいて厨窓灯す春の宵
春夕べホ句なし竈赤く燃ゆ
卓の皿そのまゝや消す春夜の灯
今日の客にみがくナイフや櫻草
洗濯に主從仲よし椿かげ
洗ひ干すこの衣皆赤し桃の風
犬にむごき婢をたしなめぬ木瓜の雨
つま立てゝ桃に竿のす小婢かな
[やぶちゃん注:「小婢」「せうひ(しょうひ)」と音読みしていよう。]
婢がしめし木戸おす犬や春の雨
花吹雪犬をつないで外出かな
晝飯たべに歸り來る夫日永かな
[やぶちゃん注:「晝飯」は「ひる」、「歸り來る夫」は「かえりくるつま」と訓じていよう。]
或時は憎む貧あり花曇
ソース煮て冷せる鍋や春あつし
笊に摘む花菜つぼみや彌生盡
彌生盡子を連れてよく出でありく
彼岸會の鐘のとゞかぬ野住かな
垣の根の菫摘む子をいましめぬ
舊師の訃報
ゑがきまとむる面影あはし花の雨
[やぶちゃん注:「舊師」不詳。]
讀みうめば首振り人形日永かな
畫く父ホ句よむ母や野邊遊び
[やぶちゃん注:久女にもこうした小さな至福の瞬間があったことに、私はどこかで心救われる気がするのである。]
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