ツルゲーネフ「ビェージンの草原」の登場人物
現在、ツルゲーネフ「猟人日記」中山省三郎訳「ビェージンの草原」の再校訂とPDF化作業中。今暫くお待ちあれ。
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ツルゲーネフ「ビェージンの草原」の登場人物
私
猟の帰りに道に迷い、こビェージンの野に辿り着き、初夏の夜の馬の放牧の番をしている五人の少年たちと邂逅する。本作はその少年たちと焚火を囲んで語られる夏の一夜の不思議な御伽話なのである。
フェーヂャ(最年長。十四歳)
長身の美少年。捲毛の艶のある髪に、ぱっちりした眼。いつも半ば愉しそうな、半ば呑気さうな微笑みを浮かべている。富農の子と思われ、ヴェージンの野へ来たのも馬番としての仕事のためではなく、遊びと思われる。黄色い縁取りをした華やかな更紗のシャツを着、小さな新しいアルミャク(厚い羅紗で出来た農民用の外套)をひっかけ、浅黄色の帯には櫛が下がっている。胴の浅い長靴を履いている。
パウルーシャ(十二歳未満)
サイヅチ頭で頰骨も広く口は大きいが締まりがある。蒼白いアバタ顔で、よれた黒髪に灰色の眼をしている。体もずんぐりとしていて不格好、粗末な手織りのシャツとツギの当ったズボンと、見るからに貧しさを感じさせ、しかもお世辞にも美少年とは言えぬが、少年たちの話を終止黙って聴いている「私」はこのパーウェル(本名)が気に入っている。それは如何にも利発そう、率直で、その声に力が込められていたからである。コーダに後に「私」の知った彼についての悲しい事実が記されて、本作は閉じられる。
イリューシャ(十二歳未満)
しょぼしょぼした目つきに間延びし面相に加えて如何にも心細そうな表情をしており、鉤鼻、固く結んだ唇は微動だにせず、眉は終止寄せたままで、一見して発達障害を抱えているように見受けられる少年。皆で囲んでいる焚火の眩しさから、常時、顔をしかめている。白茶けた黄色の髪が、耳の上まで深くかぶっているフェルト帽の間から、顔の左右に尖った魚のひれのようにはみ出している。新しい木靴と脚袢を穿き、さっぱりした黒のスヴィトカ(長いシャツ)をぴったりと身につけ、太い繩を胴の回りに三重に巻いている。
コスチャ(十歳ほど)
ソバカスの多い小顔で、栗鼠のように顎が尖っている。唇はほとんどないのではないかと思わせるほどに薄い。大きい黒目がちの光る眸が清らかにしっとりと輝いていて、一種異様な印象をさえ与える。謂わば――口では言い表すことが出来ない「あるもの」を――この眼は語ろうとしているかのような神秘的な光をその目は放っている。痩せて背が低く、如何にも弱々しそうな体つきをしており、身なりもかなりみすぼらしい。そのもの思わしげな悲しさをたたえた眼つきが「私」の好奇心を強くそそる。
ワーニャ(七歳ぐらい)
この少年は、莚を被って焚火の傍におとなしく丸まって寝ころんでいたため、「私」は最初、暫く気づかずにいた。筵の間からの亜麻色の捲毛の頭を覗かせている。