日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十五章 日本の一と冬 茶入れについて
図―524
図―525
図―526
非常に数の多い骨董品店で、人は屢々漆器、象嵌(ぞうがん)、籠細工、その他にまざって、色あせた錦の袋に入った、陶器の壺(図524)があるのに気がつく(図525)。壺には象牙の蓋があり、そして形も外観も、極めて平凡であることが多い。これ等が陶器中最も古いものの一種であることを知らぬ人は、その値段の高さに呆れる。これはチャイレと呼ばれ、喫茶のある形式に使用する粉茶を入れるべくつくられたものである。それを納めた箱(図526)の蓋には、品名と陶工の名とが書いてある。比較的新しく、安価なものも多い。普通な種類に親みを感じ始めるのにさえも、多少の時間を要するが、研究すればする程、茶入の外観は魅力を増して行く。
[やぶちゃん注:「チャイレ」原文“chaire”。なお、これをフェイス・ブックに公開したところ、図535の紐の結び方は茶入れの中が空の時の結び方であるというコメントを頂戴出来た。私は門外漢なだけに目から鱗であった!]
日本人は非常に多くの種類に紐を結ぶことに依って、彼等の芸術的技能を示す。その結びようの各々に、名がついている。これ等は贈物、袋、巻物、衣服を結んだり、その他の目的に使用される。粉茶を入れる小さな陶器の壺ほは、錦の袋に入っている。私はその袋の口を結ぶ結び方を覚え込み、茶入を袋に返してから、注意深く適当に紐を結んでは、いつでも商人の興味と同情とを呼び起した。私はかかる簡単な礼儀を守ることによって、陶器商間に於る私の好機を、大いに高めた。
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