杉田久女句集 306 杉田久女句集未収録作品 Ⅻ 大正七年(7)
大鮎一尾づゝ靑串打つて燒きにけり
鼠死に居て氣味わろき井や梅雨に殖えて
夏足袋ほすや茄子を支へて竹細し
衣紋竹に柿の葉風のつのりけり
夏夜人に蓮池ひろく灯を浸す
矢矧川沿岸
灯皆消して瀨音に寢るや夏の夜
[やぶちゃん注:「矢矧川」「やはぎがは(やはぎがわ)」で、福岡県遠賀郡岡垣町の山中を源流とし、同岡垣町の三里松原(芦屋海岸)で玄界灘に注ぐ川のことと思われる。]
起し繪淋し寢ねゐし蒲團積みよせて
[やぶちゃん注:「起し繪」建物や樹木などの絵を切り抜いて厚紙で裏打ちし、枠組みの中に立て並べて立体的に構成した、一種のペーパー・クラフト。木版刷りの豊かな彩色がなされたものや、灯火を点ずる仕掛けを施したりしたものもあり、「忠臣蔵」「白浪五人男」「道成寺」などの歌舞伎の舞台や、名所風景などを題材とし、遠近法をも取り入れた江戸時代からある立体の紙玩具である(茶室の設計時などにも利用される)。「立て絵」「立て版古(ばんこ)」とも呼び、大正頃まで流行した。季語としては夏とする。以下、ネットより採句。
おこし繪に灯をともしけり夕涼み (正岡子規)
うち並べともし勝たり立版古 (高浜虚子)
起し繪の男を殺す女かな (中村草田男)]
玻璃の水草白根漲るついりかな
長女病む
熱高き子に蔓朝顏の風はげし
[やぶちゃん注:長女昌子さん小学一年生の夏である。年譜記載はない。]
入院
病兒寢ぬれば我に蠅襲ふ疊哉
次女をよそにあづけ看護する事四日
子燕や我になき焦るとあはれなり
廣葉雫葉を打つてまた淸水に
新涼や黄葉出來そめし小楮
[やぶちゃん注:「小楮」「ちさかうぞ(ちさこうぞ)」と読んでいるか。]
厨窓にのぞく穗先や箒草
くゝりゆるくて瓢正しき形かな
梯子かけて瓢のたうき急ぎけり
黍に浴めば庭に月噴く泉哉
[やぶちゃん注:「浴めば」は「あめば」で「浴む」(マ行上二段動詞)の未然形で、浴びせる、注ぎかけるの謂いであろう。何か、今の私には不思議に心惹かれる句である。]
畑厨をめぐれば多し秋の蠅
[やぶちゃん注:「畑厨」「はたくり」と読むか。台所の勝手口に隣接した家庭菜園のことか。「畑/厨」ではあるまい。]
雞頭に白々と立てぬ厨障子
障子まだ張らで夜寒や厨窓
丸く寢て犬も夜寒し厨土間
葱畑に障子はめたる厨かな
竈の灰かきとりかくる冬菜哉
笊の目の泥や冬菜をぬき入れて
笊いぬいてどこそこ分かつ冬菜哉
粉雪散る引窓しめぬ乾鮭に
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