甲子夜話卷之一 23 東海寺澤庵番の事
23 東海寺澤庵番の事
品川の東海寺には、澤庵番と云ることあり。是は彼寺領の農夫、夜毎に彼寺の門々を守り居るなり。其故を聞に、澤庵和尚は高德にして、獻廟殊に歸依し給ひ、大域へも召し、又は寺へも御立寄せ玉ふこと度々なりしかど、澤庵とかく永住を欲せず、時として寺を出て去んとす。公これを憂させ給ひ、人をして守らしめ出行ことを遏め給ふ。つひに澤庵遷化の後も例となりて、永く其舊に依れり。今親く農夫に間ふに、いかなる故に夜々寺門を守るぞと言へば、答るには、我等守らざれば澤庵逃去らるゝなりと。農民の愚直にして古色を存する、誠に愛すべし。
■やぶちゃんの呟き
「獻廟」徳川家光。
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