日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十六章 長崎と鹿児島とへ 長崎の最初の印象
私はここで、長崎には狭い町通があり、その多くには長い、矩形の石が敷きつめられ、人力車が非常に平滑にその上を回転して行くことを述べ度い。牡牛の腹脇には鈴をつけた長い紐が下っているので、歩き廻るにつれ、ジャランジャランいうニューイングランドの橇(そり)の鈴を連想させるような音がする。もっとも、これはニューイングランドよりも十倍も大きな音である。長崎の住民は、長い間外国人と交際しているので、北の方の人々みたいに丁寧ではない。乱暴ではないが、「有難う」ということが無く、お辞儀もあまりしない。そして、店で何か見せて貰ったことに対して、私が礼をいうと、彼等は恰もそれ迄に、こんな風に外国人から丁寧に扱われたことが無いかの如く、吃驚したような顔をする。当地に於る私の僅な経験に依ると、外国人は日本人の召使いに対して、鋭くて厳格であり、あらけなく彼等に口をきき、極めてつまらぬ失策をしてさえ叱りつける。人力車は新型で、幌は旧式な日除帽子に似ている。子供達は我々の後から「ホランダ サン!」「ホランダ サン!」と呼びかける。これは“Hollander Mr”という意味である。
[やぶちゃん注:「あらけなく」「粗けない/荒けない」でカ行下一段活用の動詞「粗ける」の未然形「粗け」に、打消の助動詞「ない」が付いた形。粗暴な・乱暴な。
「Hollander」オランダ人。]
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