生物學講話 丘淺次郎 第十二章 戀愛(8) 三 色と香(Ⅳ) まとめ
色でも香でも決して單に異性と居處を知らせ合ふためばかりではない。前の例によつても知れる通り、大抵の場合にはこれによつて相手の本能を呼び起し、その滿足を欲せしめることが出來る。生殖細胞を出遇はせたいといふ本能は、如何なる動物にも具はつてあるが、この本能はいつでも働いて居るわけではなく、生殖細胞の成熟する頃だけ著しく現れる。そしてその際特殊の感覺器を通じて刺戟を與へると、本能が急に猛烈に働いて、これを滿足せずには居られぬといふ程度までに上る。獸類や蛾類などの發する香は、主としてこの意味のものである。人間でも香と性慾の興奮との間には密接な關係があるが、人間は獸類でありながら特に鼻の粘膜の面積が狹く、隨つて嗅感が頗る鈍いから、到底他の動物に於ける嗅感の働を正當に察し知ることは出來ぬ。
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