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2014/12/11

生物學講話 丘淺次郎 第十二章 戀愛(5) 三 色と香(Ⅰ)

 

     三  色と香

 

 雌雄の動物が互に相近づくために、自己を示して相手の注意を引くには、感覺の力に訴へるの外に途はないが、その際如何なる感覺が主として用ゐられるかは、素より動物の種類によつて違ふ。眼のよく發達した種類ならば、色の模樣により、耳のよく發達した種類ならば、音聲により、鼻のよく發達した種類ならば、香によるのが常で、雄が美しい色を示せば、雌はこれを見て慕ひ來り、雌が好い香を發すれば、雄はこれに引かれて集まる。鳥類は眼と耳とがよく發達して、中でも視力は動物中の一番に位するが、鼻の感覺は餘り鋭くない。それ故美しい色と好い聲とで相手を誘ふものはあるが、香を發するものは殆どない。これに反して、獸類は鼻が非常によく發達して、隨分遠くからでも香を嗅ぎ附ける。犬が探偵に用ゐられ、鹿が風上の獵師を知るのはこのためである。普通の獸類の鼻の切り口を見ると、嗅ぐ神經の擴がつて居る粘膜は恰も唐草の如くに複雜な褶をなして、その空氣に觸れる面積は實に驚くべく廣いが、これによつてもその嗅ぐ力の非凡なことが推察せられる。されば獸類には香を發して異性を引き寄せるものの頗る多いのも不思議でない。人間ももし鼻の内面の粘膜が犬などの如くに複雜な褶をなして、嗅感が犬の如くに鋭かつたならば、必ず繪畫・彫刻・詩歌・音曲よりも更に一層高尚な香の美術が出來たに相違ないが、人間の嗅感は極めて鈍いから、美術といへば殆ど目と耳とに訴へるものに限り、終に鼻で味ふ美術が發達するには至らなかつた。昆蟲類などには、音や香によつて雌雄相近づく種類が頗る多くあるが、遙に下等の動物には神經系の構造も簡單で、感覺器の發達も不完全であるから、兩性の相誘ふために特殊の手段は餘り行はれぬやうである。

[やぶちゃん注:「鳥類は眼と耳とがよく發達して、中でも視力は動物中の一番に位するが、鼻の感覺は餘り鋭くない。それ故美しい色と好い聲とで相手を誘ふものはあるが、香を發するものは殆どない」この「殆ど」という部分が気になり、ちょっとネットを調べてみてもなかなか見当たらない。専ら、鳥類は性フェロモンは分泌しないようである、という記載が目立つのであるが、どうも気になる。そのような中、立教大学動物生態学研究室公式サイト内の同理学部生命理学科教授上田恵介氏が御自身書評ページ内で、William C. Agosta 著・木村武二訳「フェロモンの謎」(東京化学同人社刊。実はこの本、私も読んでいるはずなのであるが、書庫の山の底に沈んでドレッジ出来ない。恐らく私がこの部分が妙に気になったのは愚鈍ながらも私の脳がどうもこの本を読んだ記憶を残していたかららしい)を取り上げられており、その中で、

   《引用開始》

残念ながら鳥ではこれがフェロモンだと言うものは見つかっていない。翼を持って空に舞い上がった鳥には化学的コミュニケーションの必要性は薄いのかも知れない。しかしマガモのメスの尾腺の成分が繁殖期に変化することやウミツバメ類やアホウドリ類などの強い体臭と嗅覚系の発達を考えると、鳥も種類によっては何らかのフェロモンを用いている可能性が高い。鳥とフェロモンの関係はまだ研究されていない未知の領域である。

 この本はこれまでにわかっている種々の動物・植物・細菌のフェロモン利用について、豊富な事例を絵や写真で平易に説明している。そして何がわかって何がわかっていないのか、フェロモン研究の最前線を紹介するとともに、「この生き物がこんなことをしているのか」という、自分が知らなかった不思議を発見する喜びを満載した本である。

   《引用終了》

と述べておられるのを発見した。「尾腺」は尾脂腺・油脂腺とも称し、尾羽根の付け根のところにあって、そこから蝋様の物質を分泌する。ウィキ類」によれば、鳥類は、この分泌物を嘴で採ってそれを羽根に塗付するという。『この分泌物は羽毛の柔軟性を守り、また抗菌薬としても働き、羽毛を劣化させる細菌の成長を阻害する』とあって、さらに『この作用は、アリの分泌するギ酸によって補われているとされ、鳥類は羽毛の寄生虫を取り除くために、蟻浴として知られている行動を通してこれを得ると考えられている』と記す。その他の鳥類愛好家の方のサイトをみても、この尾腺の分泌物は羽根の手入れに用いられているという記載で、交尾行動との連関を記したものは見当たらないようである。しかし、上田氏が「マガモの」と限定している辺りは、氏がこの尾腺の分泌成分の変化が♀マガモに於ける♂に対する誘引物質(性フェロモン)として機能している可能性を示唆するものとして考えておられることは明白である。

 検索を続けると、鳥愛好家の方の個人サイト「鳥便り」の中に鼻」というこれまた優れたページがあり、そこを見ると、鳥類でも嗅覚が良く発達している種類として、キーウィ・コンドル・ハゲワシ類・ミズナギドリ類・ウミツバメ類・フクロオウムを、やや発達している種類としては、夜行性の鳥類やワシタカ類を挙げられており(それらの驚くべき嗅覚の詳細はリンク先を)、臭葉(大脳辺縁系の一部で嗅覚を掌る)の発達した鳥として「マガモ」を挙げられ、そこに、『♂は♀の繁殖臭を嗅ぎ取ることが重要』。『♀の繁殖臭は尾腺の分泌物から発し、繁殖期にはその成分が変化する』と注されてある。繁殖臭とはこの場合、一種の性フェロモンと同様の働きを持つと考えてよいであろう。但し、同ページのデータの嗅細胞の数(単位 : 万)を見ると、イヌが 22,000 、ウサギで 10,000 、ヒトが 1,500 であるのに対し、カモでも 1,200 、ハトで 600 、ジュウシマツに至っては 22 とあり、加えて『匂いの受容体遺伝子(嗅覚受容体)の数』は人の 500 に対して、ニワトリは 200 しかないことが記されてあるから、やはり鳥類全般に於いては確かに嗅覚は退化しているとは言えるようである。

 また、独立行政法人農業環境技術研究所公式サイト内の第5回アジア太平洋化学生態学会(APACE2009) (10月、米国) 参加報告の中に、『カリフォルニア大学のガブリエラ・ネビット博士から、ウミツバメやアホウドリなどの海鳥が「におい物質」を手がかりとして個体識別や帰巣行動をとるという、Science 誌に発表された研究が紹介されました。ネビット博士は学位をとったばかりの新進気鋭の女性研究者で、映像を交えたとても分かりやすい発表でした』という記載も発見した。「におい物質」という意味深な括弧書きはまさに、これが未知のフェロモンの可能性を私には示唆しているように見えてならない。]

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