日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十六章 長崎と鹿児島とへ 船上にて――トビウオを見る / 長崎到着
私は初めて飛魚を見た。最初に見た二匹はくっつき合って飛んでいたが、私はそれ等を鳥が水から飛び出ようとする――恰も鴨が先ず水を離れる如く――のだと見誤った。私には彼等の鰭(ひれ)が水を打つ音を聞くことが出来た。これは然し、或は尾鰭が急速に前後に揺れて、奇妙な尾の羽根みたいに見えたのかも知れない。彼等が姿をかくす迄、私はそれが飛魚であることに気がつかなかった。この動物が実際飛ぶことには疑はない。私は熱心に、次の魚の出現を待った。すると好運にも、船首のすぐ下に飛び上り、すくなくとも五百フィートの距離を、最初は一直線に、そして水に落ちるすぐ前には、優美な曲線を描いて飛んだ。それは水面上一フィート半の高さを、キチンと保って、この上もなく美事な典雅さを以て非常に速く飛んだ。その飛行の確実さは、私に蜻蛉(とんぼ)を思わせた。それ迄話によってのみ承知していた私は、それがこんなに美しいものであるとは、夢にも思わなかった。
[やぶちゃん注:ウィキの「トビウオ」によれば、条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上ダツ目トビウオ科 Exocoetidae に属するトビウオ類は太平洋・インド洋・大西洋の亜熱帯から温帯の海に棲息し、世界で五十種ほど、日本近海でも三十種弱ほどが知られるとある。『細い筒状の逆三角形の断面を持つ体をしており、最大の種でも』全長は約三〇~四〇センチメートルで、『背は藍色で腹は白色。胸ビレが発達して著しく大きく、尾ビレは上端と下端が長く伸びたV字状で、特に下端が長く水面から飛び立つ推進力を効率よく伝えられるようになっている。滑空時には胸ビレを広げるので、これがグライダーの翼のような役割をする。腹ビレも大きい種もおり、この場合には翼が』四枚あるように見える。『一般に陸地に近い沿岸部に多い。海の表層近くに生息し、動物プランクトンなどを食べる。水上に飛び出して、海面すれすれを猛スピードで滑空する。これは主に、マグロやシイラなどの捕食者から逃げるためといわれる。滑空時は』百メートル程度は普通に飛ぶことが出来、水面滑走時の速度は時速三十五キロメートル、空中滑空中の速度は時速五十から七十キロメートルに達し、飛行高度は海水面から三~五メートルにまで及び、大型種では六百メートル程度滑空が可能であるとある。「BBC Life - Flying Fish」の動画画像が短いものの、クリアーで飛翔時の体勢がよく分かる。
「五百フィート」百五十二・四メートル。
「一フィート半」約四十六センチメートル。]
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