橋本多佳子句集「海彦」 焼津漁港
焼津漁港
秋刀魚競(せ)る渦に女声の切れつぱし
秋刀魚競場旅の肩身の吹きさらし
秋刀魚市場風蝶の羽のむだづかひ
秋刀魚競る忘れホースの水走り
鮪またぎ老いのがにまた競りおとす
鮪競る興奮ををもて老いのたゝら
故国野分大漁旗のひらきつぱなし
野分濤繫(か)かれる中の遠洋漁船
野分浪さなくとも旅衣しめりやすし
[やぶちゃん注:底本年譜の昭和三〇(一九五五)年の条に、『秋、焼津に行き、「七曜」の武政洋人、田中白夜らの案内で競りを見る』とある。私としては、まだ新しい記憶である、前年三月一日にビキニ環礁の水爆実験に巻き込まれて被爆、三月十四日、ここ焼津港に帰港した第五福龍丸のイメージを含ませた句の一つもないことを少し残念に思うのである。]
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