やぶちゃん版「澄江堂遺珠」関係原資料集成Ⅵ ■4 推定「第三號册子」(Ⅷ) 頁37~頁38
《頁37》
竹むら多き瀟湘に
夕の雨ぞ
大竹むらの雨の音
思ふ今は
幽かにひと
夜半は風なき窓のへに
薔薇は
古き都は來て見れば靑々と
穗麥ばかりぞなびきたる
朝燒け
古き都に來て見れば
路も
幽かにひとり眠てあらむ
わが急がする驢馬の上
穗麥のがくれに朝燒くるけし
ひがしの空ぞわすられね
ひがしの空は赤々と
朝燒けし
[やぶちゃん注:この頁も自筆原稿が「澄江堂遺珠」の裏表紙見返し(左頁)で視認出来る。そこでは、
竹むら多き瀟湘に
夕の雨ぞ
■
大竹むらの雨の音
思ふ今は
幽かにひと■
夜半は風なき窓のへに
薔薇は
■古き都は來て見れば靑々と
穗麥ばかりぞなびきたる
朝燒け
[やぶちゃん注:ここで下段にシフトしている。]
古き都に來て見れば
路も
幽かにひとり眠てあらむ
わが急がする驢馬の上
穗麥のがくれに朝燒くるけし
ひがしの空ぞわすられね
ひがしの空は赤々と
朝燒けし
と判読出来、私が判読不能とした抹消字三字は存在しないことになっている。]
《頁38》
水の上なる夕明り
畫舫にひとをおほもほへば
わかぬぎたがすて行きしマチ箱の薔薇の花
赤白きばかりぞうつつなる
水のうへなる夕明り
畫舫にひとをおもほへば
たがすて行きし
わがかかぶれるヘルメツト
白きばかりぞうつつなる
はるけき人を思ひつつ
わが急がする驢馬の上
穗麥がくれに朝燒けし
ひがしの空ぞ忘れられね
さかし
[やぶちゃん注:ここに編者によって、『以下、欄外・横書き』という注が入る。]
Sois
belle, sois triste ト云フ
[やぶちゃん注:この頁も自筆原稿が「澄江堂遺珠」の表紙見返し(右頁)で視認出来る。そこでは、本文罫欄外上部頭書様パートに、
Sois belle, sois triste ト云フ
と記し、本文は、
水の上なる夕明り
畫舫にひとをおほもほへば
わかぬぎたがすて行きしマチ箱の薔薇の花
赤白きばかりぞうつつなる
水のうへなる夕明り
畫舫にひとをおもほへば
たがすて行きし
わがかかぶれるヘルメツト
白きばかりぞうつつなる
はるけき人を思ひつつ
わが急がする驢馬の上
穗麥がくれに朝燒けし
ひがしの空ぞ忘れられね
さかし
■
と判読出来る。
「赤白きばかりぞうつつなる」の「ぞ」が吹き出しで右から挿入、「驢」の字は原稿では「盧」を「戸」としたトンデモ字である。
《頁38》では「赤白きばかりぞうつつなる」と「水のうへなる夕明り」の間に空行があるが、実際にはなく、字下げであることが分かる。最後の抹消字は不詳であるが、これは《頁38》稿では存在しないことになっている。以上、私が現認出来る原稿数箇所を見ても、それぞれに微妙に異同があることが分かる。もし、これが佐藤春夫の言う「第四號册子」で、同一物であるとすれば(私は基本的に同一物であると考えている)、残念ながら、新全集のこれら判読は必ずしも全幅の信頼をおくことは出来ないと言わざるを得ない。]
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