フォト

カテゴリー

サイト増設コンテンツ及びブログ掲載の特異点テクスト等一覧(2008年1月以降)

The Picture of Dorian Gray

  • Sans Souci
    畢竟惨めなる自身の肖像

Alice's Adventures in Wonderland

  • ふぅむ♡
    僕の三女アリスのアルバム

忘れ得ぬ人々:写真版

  • 縄文の母子像 後影
    ブログ・カテゴリの「忘れ得ぬ人々」の写真版

Exlibris Puer Eternus

  • 吾輩ハ僕ノ頗ル氣ニ入ツタ教ヘ子ノ猫デアル
    僕が立ち止まって振り向いた君のArt

SCULPTING IN TIME

  • 熊野波速玉大社牛王符
    写真帖とコレクションから

Pierre Bonnard Histoires Naturelles

  • 樹々の一家   Une famille d'arbres
    Jules Renard “Histoires Naturelles”の全挿絵 岸田国士訳本文は以下 http://yab.o.oo7.jp/haku.html

僕の視線の中のCaspar David Friedrich

  • 海辺の月の出(部分)
    1996年ドイツにて撮影

シリエトク日記写真版

  • 地の涯の岬
    2010年8月1日~5日の知床旅情(2010年8月8日~16日のブログ「シリエトク日記」他全18篇を参照されたい)

氷國絶佳瀧篇

  • Gullfoss
    2008年8月9日~18日のアイスランド瀧紀行(2008年8月19日~21日のブログ「氷國絶佳」全11篇を参照されたい)

Air de Tasmania

  • タスマニアの幸せなコバヤシチヨジ
    2007年12月23~30日 タスマニアにて (2008年1月1日及び2日のブログ「タスマニア紀行」全8篇を参照されたい)

僕の見た三丁目の夕日

  • blog-2007-7-29
    遠き日の僕の絵日記から
無料ブログはココログ

« 耳嚢 巻之九 駕に醉ざる呪の事 | トップページ | 耳囊 卷之九 不思議の尼懴懺解物語の事 »

2015/01/14

耳嚢 巻之九 麹町小西重寶の事

 麹町小西重寶の事

 

 椛(かうじまち)町に小西といへる木藥屋(きぐすりや)あり。火災の節、土藏造の家へ袋をかけて防ぎ、度々の火災をまぬがれしといふ事、かゝる大造(たいそう)の袋、平常の持(もち)なやみ心得がたく、又火を革にて防ぐといふ革も信用なりがたく思ひしに、文化六年の春親友來りてかたりけるは、家來の内、彼(かの)小西が許へ調へものに至りて火事の咄しなど出(いで)しゆゑ、此家は火災のせつ袋を家にかけてまぬがるゝと云(いふ)事、實なるやと尋(たづね)ければ、亭主の答へに、家に袋など懸(かく)べきいわれなし、しかし一向なき事にてはなし、我等方土藏造なれど、火災の節は戸前口(とまへぐち)と窓の戸口とへは、先祖より持傳(もちつた)へし革にて拵へし暖簾(のれん)やうのものあり、是をかけ候也、風の勢、火の勢、吹(ふき)かけ候得(さふらえ)ば、右の暖簾あをり候ゆゑ自然(おのづ)と火氣を防(ふせぎ)候や、前々火事の節々まぬがれし由、若し好み候はゞ、右品見せ可申(まうすべし)、殊外(ことのほか)古くよごれたれども、持傳へものゆゑ寶となす由かたりしと、右の者咄しけるゆゑ、聊(いささか)故なきにも無之(これなき)間、少し疑ひも解(とけ)ぬれば爰に記しぬ。

 

□やぶちゃん注

○前項連関:一見、呪(なじな)い連関に見えるが、これは確かにして、理の通った防火施策である。実はこの状況は、既に「耳嚢 巻之五 火難を除けし奇物の事 又は この主人公コニカの御先祖であること」で語られた内容を、根岸が実際にさらに聴取して検証した、続編的一篇である。リンク先の私の諸注を参照されたい。なお、底本の鈴木氏注には、『三村翁「麹町四丁目生薬問屋小西六兵衛ならん。」また袋については「或は火浣布にや」と。それならば石綿を糸状にし、麻糸と交織したもの』とある。

・「文化六年の春」「卷之九」の執筆推定下限は文化六(一八〇九)年夏。すこぶる直近。

 

■やぶちゃん現代語訳

 

 麹町の木薬屋(きぐすりや)小西の「火除けの革」と申す重宝(じゅうほう)の事

 

 麹町に小西と申す木薬屋(きぐすりや)が御座る。

 火災の折りには、土蔵造りの家へ袋を掛けて防ぎ、何度も大きなる回録(かいろく)を免れて参ったと風聞致す。

 しかし、かかる大造(たいそう)なる革製の袋と申すは、これ、平生、保管致すだけでも難しく、心得難きことにして、また、革を以って防ぐ火を、と申す「革」なるものも、これ、如何にも信用し難きものと思うて御座った。

 ところが、文化六年の春、親しき友の私が許へ参って語ったことには、……

 

……拙者の家来のうちに、かの小西が許へ必要の品のあって買いに訪れて御座った。

 その折り、主人(あるじ)と語るうち、たまたま近頃あった火事のことなんどに話が及んだによって、その家来が、

「……そう申せば、この家(うち)は火災の折り……何やらん、袋を家全体にかけて免るると専らの噂であるが……これ、まことのことか?……」

と訊ねてみたところ、小西が亭主の答えて、

「……いえ……家に袋なんど、かけられようはずは御座りませぬ。……しかし、その手前どもに纏わる噂は、これ……全くの流言飛語と申す訳にても御座いませぬ。……我らが方は、ご覧の通りの土蔵造りにて御座いますが、火事の折りには、土蔵の戸の前の口と、窓の方(かた)の戸口とへは、これ――先祖よりもち伝わっております、革にて拵えましたる暖簾(のれん)のようなるものの御座いまして――これをかけておくので御座います。風の勢いにて火の勢い盛んとなって、私どもが方の土蔵へと、これ、吹きかかって参りましたる折りには、この暖簾が、不思議に煽られましての、何故か、自ずと――あたかも、それを以って火を防いで呉れまするものかのように――火を外へ外へと遠ざけまする。……前々より火事の節々(ふしぶし)、悉くこれによって、延焼さるるを免れて参っておるので御座います。……もしお好みとあらば、一つ、その品をお見せ申し上げましょう。……いや、お見せするには、これ、殊の外、古うて、ひどぅ汚(よご)れたる代物にて御座いますれど。……代々家伝と致いております物ゆえ……宝と致いておるので御座います。……」

と、その実物をも実見致いたとのこと、かの者の申しておりましたれば……根岸殿。以前より怪しき話と仰せられて御座いましたが、これ、全くの流言飛語の類いと申すものにても御座らぬものと、存じまする。……」

 

とのことで御座ったれば、私の永年の疑いも、少しばかり解けたことで御座った。

 さすればこそ、特にここにその談話を記しおくことと致す。

« 耳嚢 巻之九 駕に醉ざる呪の事 | トップページ | 耳囊 卷之九 不思議の尼懴懺解物語の事 »