耳嚢 巻之九 疣の妙藥の事
疣の妙藥の事
いぼをとるに色々呪(まじな)ひ又藥あれど、蛇の拔殼(ぬけがら)をもつていぼの上をすり候へば、其直る事奇々妙々なり。其外女の面(をもて)などに、はたけ又は蕎麥かすの類有之(これある)時、右の拔殼にてこすれば直りて、面ての艷を生ずる由、人の語りぬ。
□やぶちゃん注
○前項連関:薬とする蛇の抜け殻で直連関。お馴染みの「耳嚢」民間療法シリーズ。疣とりは既に「耳嚢 巻之六 いぼをとる呪の事」で二話(一話は同巻の後で重出)あり、「耳嚢 巻之八 いぼの呪の事」にもある。実はこの蛇の抜け殻を用いた疣とりについても、既に「耳嚢 巻之七 いぼを取奇法の事」に既出である(少し療法が異なるので重出とは言えない。また、そこの私の民俗学的な注も参照されたい)。
・「はたけ」単純性粃糠疹(ひこうしん)の俗称。皮膚の表面に粉を噴いたような細かい落屑(らくそう)があり(鱗屑(りんそう)と呼ぶ)、周囲の皮膚に比べると白く見える。尋常性白斑(皮膚色素を作る部位の損失を不規則に引き起こす慢性的な皮膚疾患。俗に「しろなまず」と呼ぶ)のように色素が完全に抜けているというよりも、日焼けしても次々と新しい皮膚が出来ては剥けを繰り返しているために日焼けの色がつかずに色が薄く見える状態と言ってよい。私が小学生の頃は伝染性と誤解されており、担任教師が「はたけ」の女子児童を指して、染るから近づいていけないという驚天動地の警告をクラス全生徒の前で言ったのを、私は驚きの思いで聴いたの忘れない。本症状は伝染性ではなく、また、放置しておいても問題はない。以上は信頼出来る複数の皮膚科病院サイトを参照して記載してある(次も同様)。
・「蕎麥かす」雀斑(そばかす/じゃくはん)。米粒の半分の薄茶・黒茶色の色素斑が、おもに目の周りや頰等の顔面部に多数できる色素沈着症の一種。雀卵斑(じゃくらんはん)とも言う。主因は遺伝的体質によるものが多く、三歳ぐらいから発症し、思春期に顕著になる。なお、体表の色素が少ない白人は紫外線に対して脆弱であり、紫外線から皮膚を守るために雀斑を形成しやすい傾向がある。「そばかす」という呼称は、ソバの実を製粉する際に出る「蕎麦殻」、則ち、「ソバのかす」が本症の色素斑と類似していることによる症名であり、「雀斑」「雀卵斑」の方は、スズメの羽にある黒斑やスズメの卵の殻にある斑紋と類似していることからの命名である。
■やぶちゃん現代語訳
疣(いぼ)の妙薬の事
疣をとるに、いろいろなる呪(まじな)ひやら薬のあれど、蛇の抜け殼を以って疣の上を擦(こす)ってみれば、その治ること、これ、奇々妙々にて御座る。その外、女子(おなご)の顔なんどに、「はたけ」又は「雀斑(そばかす)」の類い、これ、生じたる折りにも、この蛇の抜け殻にてちょいと擦ればたちどころに治って、よき艷の顔色に戻るとの由、人の語って御座った。
« 耳嚢 巻之九 同棲不相害事 | トップページ | やぶちゃん版「澄江堂遺珠」関係原資料集成Ⅵ ■4 推定「第三號册子」(Ⅲ) 頁3 »

