やぶちゃん版「澄江堂遺珠」関係原資料集成Ⅵ ■4 推定「第三號册子」(Ⅴ) 頁20~頁23
《頁20》
君
君が妻まげは楊子の河に河豚浮
[やぶちゃん注:「楊子」は「揚子」の、「河豚」は「海豚」の誤字。「まく」は前に示した「枕く」で妻とするの意の上代の動詞。次行も同じ。]
はしけやし吉井勇が妻まけはぐを楊子の河に河豚來にけり上るらむ
はしけやし楊子の河に海豚來る啼く吉井勇が妻まぐと啼く
海豚ばら楊子の河に啼く呼ぶ聞けば君が新妻まぐとなき呼びけり
[やぶちゃん注:これらの四首は先に注で示した大正一〇(一九二一)年五月三十日附の吉井勇宛の長沙からの芥川龍之介書簡(絵葉書・岩波版旧書簡番号九〇六)に載る「湖南長沙 我鬼」と署名のある、
河豚ばら揚子(ヤンツエ)の河に呼ぶ聞けば君が新妻まぐと呼びけり
という一首(「河豚」は「海豚」の龍之介の誤字)の推敲形と考えてよい。先行注を必ず参照されたい。]
《頁21》
みどりは
おもふは牧の水明り
花もつ草のゆらぎにも
霞ながるる西空に
風にふかるる曼珠沙華
砂路をわが行けば
ひとなき國にただふたり
住むべき家ぞめに見ゆる
[やぶちゃん注:底本の注の記載法から見るに、二行目の空白は果たして表記の様に六字分であるかどうかは定かではない。]
おもふは
風に吹かるゝ
ひとり葉卷をすひをれば
雪は幽かにつもるなり
こよひはひともしらじらと
眠れかし
ひとり小床に
いねよかし
《頁22》
人を殺せどなほあかぬ
妬み心も今ぞ知る
みどりは暗き楢の葉に
晝の光は沈むとき
ひとを殺せどなほあかぬ
妬み心も覺しか
風に吹かるる曼珠沙華
散れる
夕まく夕べは
いや遠白む波見れば□に來れば
人なき
[やぶちゃん注:二行目の「□」は底本編者が『一字不明』と記す。]
《頁23》
何かはふとも口ごもりし
黄
大路ににこの この のこる夕明り
戸のもの櫻見やりつつ
何かはふとも口ごもりし
戸のもの
きみ
何かはふとも口ごもりし
せんすべなげに□まひつつ
えやは忘れむ入日空
せんすべなげに仰ぎつつ
何かはふともほほえみし口ごもりし
その日のその
[やぶちゃん注:抹消の二行目「せんすべなげに□まひつつ」の「□」は編者注に『一字不明』とある。]
« 耳囊 卷之九 小はた小平次事實の事 | トップページ | やぶちゃん版「澄江堂遺珠」関係原資料集成Ⅵ ■4 推定「第三號册子」(Ⅵ) 頁24 »