澄江堂遺珠 表紙見開き
[やぶちゃん注:表紙見開き。順に右(効き紙側)と左(遊び側)。芥川龍之介の直筆詩稿である。これは詩原稿そのものであって、装幀として著作権を要求することは出来ないと判断出来るが、やはり用心のために一部を恣意的に問題のない端部分をカットしてある(次も同じ。この注は略す)。以下、直筆原稿を可能な限り、活字化してみる。
●右(効き紙側)部分
『「澄江堂遺珠」関連資料』の『ノート2』の『頁38』稿と同一と思われる(岩波版新全集第二十三巻五八三頁)。本文罫欄外上部頭書様パートに、
Sois belle, sois triste ト云フ
と記す。
水の上なる夕明り
畫舫にひとをおほもほへば
わかぬぎたがすて行きしマチ箱の薔薇の花
赤白きばかりぞうつつなる
水のうへなる夕明り
畫舫にひとをおもほへば
たがすて行きし
わがかかぶれるヘルメツト
白きばかりぞうつつなる
はるけき人を思ひつつ
わが急がする驢馬の上
穗麥がくれに朝燒けし
ひがしの空ぞ忘れられね
さかし
■
「赤白きばかりぞうつつなる」の「ぞ」が吹き出しで右から挿入。「驢」の字は原稿では「盧」を「戸」としたトンデモ字。『頁38』稿では「赤白きばかりぞうつつなる」と「水のうへなる夕明り」の間に空行がある。最後の抹消字は不詳であるが、これは『頁38』稿では存在しないことになっている。
●左(遊び側)部分
前の稿の続き。『「澄江堂遺珠」関連資料』の『ノート2』の『頁39』稿と同一と思われる(岩波版新全集第二十三巻五八四頁)。
畫舫はゆるる水明り
はるけき人をおもほへば
わがかかぶれるヘルメツト
白きばかりぞうつつなる
幽に雪のつ■■
幽にかに雪のつもる夜は
ひとりいねよと祈りけり
疑ひぶかきさがなれば
疑ふものは數おほし
薔薇に刺ある蛇蛇に舌
女ゆゑなる涙■さへ
幽かに雪のつもる夜は
ひとり葉卷をくはへつつ
幽かに君も小夜床に
最後の三行は原稿では一気に斜線で以って総て削除している点に注意。『頁39』稿には私の判読不能箇所は存在しないことになっている。]