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2015/01/21

耳嚢 巻之九 毒氣物にふれて增長の事

 毒氣物にふれて增長の事
 夏秋は諸蟲多く、ゲジゲジといへる毒らしき物ながら、人家道に徘徊し強て是にふれて毒ありといふ程の事もなし。しかるに右蟲眞鍮にふれぬれば、毒氣を增す事甚だし。或人眞鍮のきせるを側に置(おき)しが、其上を右の蟲はい渡りける故追退(おひのけ)しが、彼(かの)人自若として多葉粉を右きせるを以(もつ)て飮(のみ)けるに、血を吐(はき)しを見しと、横田翁かたりし。心得置くべき事なり。
□やぶちゃん注
○前項連関:なし。民間伝承毒物篇。ゲジゲジの迷信として知られたものとしては、「ゲジゲジに頭を舐められ(這われる)と禿げる」というのがある。あの簡単に自切脱落(しかも動いている気味悪さ!)する歩脚の類感呪術であろうが、それにしても、この場合は何故、真鍮なのであろう? 私は、これはムカデが金などの鉱石を採集する技術者集団及びそうした地価の鉱物の鉱脈と関連付けられて語られる伝承をスライドさせたものではなかろうかと疑っている。蜈蚣(むかで)の本物の「金」に対する、蚰蜒(げじ)のまがい物の金色の「真鍮」である。なお、調べてみると、韓国ではゲジゲジのことを「トンポルレ(돈벌레)」と呼び(「トン(돈)」は「金」、「ポルレ(벌레)」は虫)、これ(以下に示す小型種のゲジ属ゲジ Thereuonema tuberculate 若しくはその近縁種であろう)が家にいると「ブジャ(부자)」(漢語「豊者」から。「金持ち」の意)になれるとして、喜ばれるという記載がネット上にはある。この招福「益虫」説の方が、蜘蛛とかダニを食うからなんどという、まことしやかな科学的「益虫」説より、私は何か腑に落ちるタイプの人間である。大方のご批判を俟つ。
・「ゲジゲジ」節足動物門多足亜門唇脚(ムカデ)綱ゲジ目 Scutigeromorpha の属する多足類。ウィキの「ゲジ」より引く(アラビア数字を漢数字に代えた)。『伝統的にはゲジゲジと呼ばれるが、「ゲジ」が現在の標準和名である。天狗星にちなむ下食時がゲジゲジと訛ったとか、動きが素早いことから「験者(げんじゃ)」が訛って「ゲジ」となったという語源説がある』。『構造的にはムカデと共通する部分が多いが、足や触角が長く、体は比較的短いので、見かけは随分異なっている。移動する際もムカデのように体をくねらせず、滑るように移動する。胴体は外見上は八節に見えるが、解剖学的には十六節あり、歩肢の数は十五対である。触角も歩脚も細長く、体長を優に超える。特に歩脚の先端の節が笞のように伸びる。この長い歩肢と複眼や背面の大きな気門などにより徘徊生活に特化している。オオムカデ』類(Scolopendridae オオムカデ科)よりはイシムカデ類(Lithobiids イシムカデ科)に近いとある(ウィキの「イシムカデ」にも、ムカデ類の仲間であるが、多くの種が大きくても成体は三センチメートルを越える程度であり、その形態は小さなムカデに酷似するものの、体は有意に扁平で歩脚数は十五対(オオムカデ目では概ね二十一か二十三対)で、『最後の二対が特に長い。体が小さいのに比べ、触角が長い。ムカデとゲジの中間に属する種という見方もされており、形態はムカデ然としているが、触角と最後尾の脚が長いことに、体節の上限が』十五という点では『ゲジ類と共通している』。また、『イシムカデ目トゲイシムカデ科のゲジムカデ(Esastigmatobius)という属は、形態がイシムカデ属と類似しているものの、脚がイシムカデに比べて長く、イシムカデとゲジの中間といった姿をしている。また、どの種も繁殖方法や、脱皮して成長するところも、どちらかといえば、ムカデよりはゲジ類に近い』とある。以下、ゲジの解説に戻る)。『幼体は節や足の数が少なく、脱皮によって節や足を増やしながら成長し、二年で成熟する。寿命は五~六年』。『食性は肉食で、昆虫などを捕食する。ゴキブリなどの天敵である。走るのが速く、樹上での待ち伏せや、低空飛行してきた飛行中のガをジャンプして捕らえるほどの高い運動性を持つ。また他のムカデと異なり、昆虫と同じような一対の複眼に似た偽複眼を有し』、高い視覚性能を持つ。『鳥等の天敵に襲われると足を自切する。切れた足は暫く動くので、天敵が気を取られている間に本体は逃げる。切れた足は次の脱皮で再生する』。『夜行性で、落ち葉・石の下・土中など虫の多い屋外の物陰に生息する。屋内でも侵入生物の多い倉庫内などに住み着くことがある』。本邦には以下の二種が棲息する。
●ゲジ属ゲジ Thereuonema tuberculata
 成虫でも体長三センチメートル程度の小型種で、体は比較的柔軟で本体体節表面に灰色の斑を持つ。
●オオゲジ属オオゲジ Thereuopoda clunifera
 本体体節部の長さが七センチメートルにも達する大型種。足を広げていると大人の掌に収まりきらないほど大きい。本州南岸部以南に棲息。体は頑強で褐色や緑色を帯びて光沢を持つ。夜行性・暗所性で昼間は通常、洞穴の天井や物陰などに隠れている。なお、図鑑や危険動物を扱う諸本にはこれを益虫としつつ、〈無毒であるが大型個体に噛まれると痛い〉と記されてあるのをしばしば見かける。実は小さな頃から、山野・屋内を問わず、いろいろな機会にこの者にしばしば遭遇してきた私は(実見したものの中には体節長が十センチメートルになんなんとするものもいた)咬まれたことはなく、また咬まれたという人も知らない(臆病であり、凡そ元来が摑みたくない/摑めないタイプの虫であり、人がこれに咬まれる可能性というのは極めて低いと私は考えている。この謂い方は私は一種の都市伝説レベルではないかとさえ考えている。因みに私はムカデともよく遭遇し、その最大個体は鎌倉市岩瀬の自然保護地域で保存樹林の谷間に住んでいた折りに室内に侵入してきた唇脚綱オオムカデ目オオムカデ科オオムカデ属 Scolopendra subspinipes mutilans の個体で、全長が有に十五センチメートルを越えていた。かなり長い菜箸で摑んだが、巻き上がってきて、指を嚙まれそうになった。沸かした湯に入れて退治したが、この湯を捨てた際、それが少し掌に――触れた――ひっかかったのであるが、その――湯に触れた――部分は翌朝――かかった湯水の形のままに赤い炎症を発して、激しい掻痒感を覚えた――のであった。本文ではゲジゲジが触れることで毒性が強化されるとある訳だが、私はこの三十五年も前の戦慄の出来事を、今回、読みながら鮮やかに思い出していた。
・「横田翁」横田袋翁。頻出の根岸昵懇の情報屋。既注。
■やぶちゃん現代語訳
 微弱なはずの毒性が特定の対象物に接触すると恐るべき強毒化を示すという事
 夏・秋は諸々の虫の類いが、これ、すこぶる多く出ずる。
 中でも、ゲジゲジと申すは、奇体なるあの体つきからして、如何にも不気味で、さも毒の、これ、ありそうにも見える虫であるが、家内(いえうち)や道端に、こ奴の徘徊しおるに遭遇し、これに咬まれたり、或いは、触れたり致いたからというて、その毒に当たった、と申すようなことは、まずこれ、聴いたこともない。
 ところが――このゲジゲジと申す虫――ひとたび真鍮に触るると、これ、その微弱なはずの毒性が恐るべき強毒へと変ずることは、これ、想像を絶するものなのである。
 ある人、真鍮製の煙管(きせる)を自分の傍らに置いておいた。
 その上を――かのゲジゲジ虫が――吸い口から這い上って――煙管の上をすうっと渡って這っておるを見つけによって、それをぱっと払いのけた。
 ところが、その御仁、それからやおら、その煙管で煙草を吸い出したところが、
――グエーッツ!
と! 血を吐くを、これ、実際に見たことが御座るのじゃ。……
……と、横田翁の語って御座った。
 これが事実としてある現象かどうかは別として、まず、気をつけるにこしたことはないと申すべきことではあろうとは存ずる。

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